小学校と比べると負担感が軽減する中学校のPTA

「PTA」というと小学校のPTAを連想する人が多いが、中学校でもPTA活動は続き、その目的は「子どもたちの健全な育成を図る」ことで、小学校と同様である。

PTA会長、副会長、書記、会計といったPTA本部役員や委員など、組織や運営方法も小学校とほぼ同様であることが多く、役員や委員選出の時期には「立候補者が出ず、くじ引きで選出された」「沈黙に耐えかねて『やります』と手を上げてしまった」などネガティブな声も聞かれる。しかし、小学校のPTAと異なり、

・ 公立の場合は近隣の小学校が合わさる形で中学校が存在することが多く家庭数が増え、PTA役員や委員の役割を担う保護者の割合が減る傾向にある。
・ 子どもの成長により、登下校時の見守りサポートなどの活動そのものが減る。

といった状況から、いわゆる“負担感”は軽減すると考えられている。とはいえ、子どもが中学生になると共働き率がさらに増加する傾向にあるため、活動の適正化、省力化は避けて通れない。

PTA会議室を開放して「おしゃべりの場」に

大本一枝(おおもと・かずえ)
逗子市立逗子中学校で、2021年度 PTA副会長を経て、22年度PTA会長。委員会の正副委員長の廃止、立候補のない委員はその年度の活動休止などの規約改正も行った。3人の子どもの母親
(写真:大本氏提供)

「PTA単体の催しをゼロから企画するよりも、学校行事などで保護者が学校に集まる機会を活用してPTA活動を行うようにしています」と言うのは、2022年度、神奈川県逗子市立逗子中学校(家庭数:302、PTA加入率:95%)でPTA会長を務める大本一枝氏だ。

大本氏は、22年2月、新入生保護者に向け学校が開催した体操服注文会の会場である体育館の一角に、「PTAなんでも相談コーナー」を設置。

「机といすを1組置き、私がそこに座っていただけですが……(笑)。お子さんが初めて中学校に入学する保護者の方は、体操服のことはもちろん、『学校にわざわざ聞くほどのことでもないけれど誰かに聞きたい』ということが少なからずありますよね。PTAがその窓口になることができたらいいなと思い教頭先生に提案したところ、ご快諾いただき実現しました」

新入生の保護者に向け学校が開催した体操服注文会の会場の一角に「PTAなんでも相談コーナー」を設置し、保護者の質問に答えた
(写真:大本氏提供)

約2時間の間に15名ほどの保護者に声をかけられ、体操服以外についてもさまざまな質問を受けたという。

体育祭や土曜日の授業参観の日に、PTA会議室を“保護者の交流の場所”として開放
(写真:大本氏提供)

「PTAは子どもたちのための活動が中心ですが、こうした保護者のサポートも大切だと思っています。今年度も継続して行う予定です」と、大本氏。

また、体育祭や土曜日の授業参観の日に、PTA会議室を“保護者の交流の場所”として開放。事前に保護者全員にメール連絡網で案内を流し、待機場所や保護者同士の交流の場所として利用してもらうよう呼びかけた。

「コロナ禍が続いて保護者同士が対面で会う機会が減る中、3年生の保護者が高校受験や志望校選びの話をしている光景が見られました。中学生という多感な時期は、進路などをめぐり、子どもだけでなく親もモヤモヤを抱えがちです。その時々にできる方法で保護者がつながれる場や機会をつくることが、保護者の不安やストレス軽減につながるのではないかと思います」

「職場体験」中止を受け「キャリアフェスティバル」を開催

中学校でのキャリア教育といえば、生徒が地域で働く人の職場に出向いて実際の仕事や技術に触れる「職場(職業)体験」がよく知られているが、近年はコロナ禍で中止・縮小を余儀なくされている学校も多い。

逗子中学校もそんな学校の1つだったが、大本氏の知り合いが住む長野県の公立中学校が、地域でさまざまな職業に就いている大人を学校に呼び、生徒と交流する「キャリアフェスティバル」を行っていることを知った。

「『コロナ禍で職場体験ができない場合は、このような形なら開催できるかもしれませんね。もし開催することになったら、PTAも全面的にお手伝いしますのでおっしゃってください』と学校に提案したところ、『総合学習の一環としてキャリアフェスティバルを実施することにしました。可能な範囲でご協力お願いできますか?』と、お返事をいただきました」

学校主導で企画・運営を行い、PTAは職業の選択とその職業に就いている地域の大人へ講師として来てもらうための声かけ、講師へのアンケート作成、当日の受け付けなどをサポートした。

約30人の地域の大人が学校に集合したキャリアフェスティバル
(写真:大本氏提供)

キャリアフェスティバル当日は、市議会議員や医師をはじめ約30人の地域の大人が学校に集合。会場である体育館と各教室にブースを設け、4名程度の生徒のグループが1回につき40分ずつ、計3つのブースを選んで話を聞く方式で行われたという。

「子どもたちは、自作の名刺を使った名刺交換からスタート。最初は緊張していた様子でしたが、時間が経つにつれてリラックスし、気になる職業に就いている大人の方の生の声に刺激を受けている様子でした。講師の方からは、生徒から質問を受けて、自分の仕事やキャリアを見直すきっかけにもなったとおっしゃっていただきました。PTAからの提案を受け入れチャレンジしてくださった学校に、とても感謝しています。

中学生時代は多感な時期だからこそ、親だけ、学校だけで子どもたちのケアに取り組むよりは、保護者と学校がお互いに情報交換をしながら関わっていくことが大切だと感じています。保護者と学校が恒常的に本音で対話ができる関係をつくることに、中学校のPTAの存在意義を感じています」

生徒会とPTAのコラボ「SPTA」を発足

「中学校は、小学校とは異なり子どもたちに関わる活動が少なくなる部分はありますが、中学校なりの関わり方を、小学校とは違う視点で考えることが大切だと思います」と語るのは、2021年度より東京都八王子市立ひよどり山中学校(家庭数:259、PTA加入率:98.8%)でPTA会長を務める櫻井励造氏だ。

櫻井励造(さくらい・れいぞう)
東京都八王子市立ひよどり山中学校で、20年度PTA副会長を経て21年度からPTA会長。おやじの会による職業トークの会「ジョブトーク」の実施、学校と協働し制服リサイクル販売などにも取り組む。八王子市立小学校PTA連合会の顧問も務める。3人の子どもの父親
(写真:櫻井氏提供)

櫻井氏は、かねてPTA本部役員として取り組みたいことの1つに「生徒会との意見交換会」を掲げていた。

「中学校の生徒会は、SDGs関連など自分たちでさまざまな活動をつくり出しています。生徒会とPTAとの共同イベントを開催したり、校則や高校受験などさまざまな観点から、生徒と保護者の垣根を越えて一緒に活動できたりするとよいのではないかと考えていました」という。

学校に提案したところ、「ぜひお願いします」と即答。「PTA」に、生徒会の頭文字である「S」を加えて「SPTA」と銘打ち、22年9月に第1回の座談会を開催した。

「会議のメンバーは、生徒会メンバー7名、PTA役員2名、生徒会担当の先生1名の、計9名。事前にSPTAの目的や座談会で話し合う内容を生徒会メンバーに伝えておいたのですが、非常に前向きに捉え、やりたいことを考えてきてくれました」と、櫻井氏。

「卒業式の日に、卒業生へのお祝いの気持ちを込めて階段アートや黒板アートをやってみたい」「学校を会場にフリーマーケットを開催したい」「校庭の畑で取れる農作物をブランド化して、道の駅などで売りたい」「グリーンカーテンや古着回収に取り組んでみたい」など、生徒会からさまざまな企画案が出たという。

「PTA」に生徒会の頭文字である「S」を加えて「SPTA」と銘打ち座談会を開催。生徒会からはさまざまな企画案が出た
(写真:櫻井氏提供)

「階段アートや黒板アートについては、八王子市内に美術系の大学や専門学校がたくさんあるので、描いてくれる学生を見つけて生徒会につなげたり、農作物の販売についても、地元で農業系の仕事をしている知り合いを巻き込んだりすることができます。PTAが中心ではなく、生徒会と一緒に考え、彼らの思いやプランを後押しする役割に徹しながら企画の実現に向けて進めていくことで、新しい世界が開けるのではないかと思います。

生徒会担当の先生も、座談会でいろいろ話しているうちに、『制服のルールを簡素化したい』というお考えをお持ちであることがわかりました。現場の先生は、校長先生や保護者代表、地域住民などからなる学校運営協議会の活動内容について詳しく知らないことも多いので、PTAからも情報を提供しながら現場の先生の意見も取り入れていきたいですね」

「委員会制」「一人一役制」を廃止

子どもが中学生になると、登下校が自由になることに加え、部活動など親よりも友達との交流を優先して時間を過ごすようになり、小学校の時のような安全パトロールやPTA主催の親子イベントの開催などの必要性も減る。

学校、子ども、保護者にとって必要な活動を精査し、適正化、効率化を図りやすいのも、中学校のPTAの特徴といえるのではないだろうか。

ひよどり山中学校では、2021年度より、これまで慣例的に続いてきた「委員会制」「一人一役制」を廃止。「新入生の保護者が、入学式終了後体育館に残され、委員決めをする」という、“前時代的な恒例行事”をなくした。

運動会の際の受け付けや写真撮影、校内美化作業などで手伝いが必要な際は、その都度Googleフォームからサポーターを募集して運営している
(写真:櫻井氏提供)

「委員会制を廃止したため、PTA活動についての決め事は、本部役員13名(女性8名、男性5名)で行っています。新入生の保護者に向けての役員募集は、入学前の2月ごろに学校が開催する新入生保護者説明会の時に資料を配布しGoogleフォームから立候補者を募りました。『できる人が、できる時に、できることを』を実現することができる体制と運営について理解していただき、4名の新入生保護者から手が上がりました。

現在は、運動会の際の受け付けや写真撮影、校内美化作業などでお手伝いが必要な際に、その都度Googleフォームからサポーターを募集し、スムーズに運営しています。本部役員は、形式上、会長・副会長・書記・会計の役職は存在していますが、LINE WORKSを導入し全員で協力しながら運営しており、中学校や子どもたちの学校生活に対する興味が少しでもあれば、“誰でもできる本部役員”であるといえます。多くの保護者がPTA活動を前向きに楽しめるよう、発信を続けていきたいと思います」(櫻井氏)

NPO法人のキャリア教育プログラムを導入

NPO法人や地域とコラボし独自の取り組みを行う中学校PTAもある。東京都豊島区立明豊中学校(家庭数:394、PTA加入率:100 %)だ。

森田絹枝(もりた・きぬえ)
東京都豊島区明豊中学校で、21年度からPTA会長を務める。これまでの「一人一役制」を廃止し、できる人ができることを行う方式で委員選出を行った。高校受験をテーマに保護者座談会も開催。3人の子どもの母親
(写真:森田氏提供)

同校で2021年度からPTA会長を務める森田絹枝氏は、「認定NPO法人キーパーソン21」で活動する知人を通し、同法人が展開するキャリア教育プログラム「わくわくエンジン®」の存在を知った。

「わくわくエンジン®」とは、先生でも保護者でもない社会人との出会いの中で、子どもたちが将来の仕事や生き方について考え、自分が本当に大切にしたいことに気づき、主体的に人生を選択して動き出す力を育むオリジナルの教育プログラムだ。

社会で活躍する大人による講演「おもしろい仕事人がやってくる!」、自分の好きなことや関心のあることを知り自分がわくわくすることが何かについて考える「すきなものビンゴ&お仕事マップ」など、複数のプログラムが存在する。

「保護者同士でいろいろ話をする中で、『自分は何が好きなのかわからない』と感じている子どもが多いことを感じました。わくわくエンジンの『すきなものビンゴ&お仕事マップ』は、それらを具体的に知ることができるプログラムであることを知り、子どもたちに体験させたいと思いました」と、森田氏。

PTA会長に就任した21年度の春、校長先生に話を持ちかけたところ、「面白そうですね」と、キャリア教育を行う2年生学年主任の先生につないでもらえたという。

「学年主任の先生も、コロナ禍で職業体験ができないことに加え、今ある職業が、子どもたちが大人になったときにも存在するかどうかわからない状況の中で従来どおりのキャリア教育を続けてよいのだろうかという疑問を抱いていらっしゃいました。

豊島区では、教育委員会が、子どもたちが身近な地域課題を学び解決策を考え行動を起こす『SDGs達成の担い手育成事業』を21年度から開始し、区内の各学校で取り組んでいます。自分の内面を見つめ、掘り下げることからスタートするわくわくエンジンプログラムのコンセプトをご理解いただき、この事業の一環として位置づけ、“自分を知る”キャリア教育として導入することが決まりました」(森田氏)

子どもたちがグループに分かれ、ビンゴゲームや対話の中から自分の好きなことを発見したり、自分がわくわくすることが何かを考える約2時間のプログラムを実施するには、子どもたちの思いを引き出す大人のサポーターが欠かせない。

「PTAでサポーター募集のチラシを作り、自校や近隣の小学校に配布したのに加え、町会長さんにお願いしてポスターを貼りました。結果、PTA役員や委員、保護者、地域の方を含め15名のサポーターが集まり、21年10月にプログラムを実施することができました。『将来のことを楽しく考えることができてよかった』など、子どもたちから大好評だったことはもちろん、先生やサポーターの方からも『生徒の目が普段より輝いていました』『子どもたちがワクワクする様子を共有でき、貴重な時間を過ごせました』などの声をいただきました」

豊島区の「SDGs達成の担い手育成事業」の一環に位置づけ、“自分を知る”キャリア教育としてわくわくエンジンプログラム導入した
(写真:森田氏提供)

小・中連携事業に発展

第1回の成果を踏まえ、2022年度も継続開催が決定する中で、新たなムーブメントが起こった。21年度のプログラムに参加した生徒が、「とても楽しかったし自分を知ることができたから、これを小学生にやってあげたい」という声が上がったという。

「小・中連携事業として『わくわくエンジン発見教室』というキャリア教育イベントを開催することになり、近隣の小学生の参加募集、中学生のサポーター募集を行ったところ、それぞれ15名集まりました。サポーターの中学生たちは『どうしたら小学生にリラックスして楽しく参加してもらえるか』について知恵を出し合いながら準備を進め、イベント当日も大盛況でした。サポーターの生徒が全校生徒の前で寸劇を交えながら活動報告を行い、『来年もやろう!』と呼びかけていた姿を目にしてとてもうれしかったですね。来年度以降も持続可能な活動となるよう、引き継いでいきたいと思います」と、森田氏。

思春期を迎え、親子のコミュニケーションが減りがちになり、未来に向けて揺れ動き始める中学生の時期。だからこそ中学校PTAは、活動の適正化を図りつつ、キャリア教育など学校との協働や情報共有、生徒会とのコラボ、保護者同士の対話の場の創出などに取り組みながら、子どもたちの成長を見守り、支えることが活動の肝となるのではないだろうか。

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:森田氏提供)