現役高校生が「全国の校則」のデータベース化を始めた訳

昨今、「ブラック校則」をめぐって学校と生徒たちの間でさまざまな葛藤や摩擦が起きており、中には訴訟問題に発展するケースもある。学校生活を離れた社会人から見ても、なぜこんな校則がいまだにあるのかと理解できないものも少なくない。

こうした中、12年ぶりに改訂された新たな生徒指導提要には、「児童生徒の実態にそぐわない厳しすぎる校則等」には児童生徒の成長・発達にマイナスに働くケースがあることや、学校のホームページに校則を掲載して周知することが望ましいとする指摘などが加わった。

一方で、以前から“校則の見える化”を行うウェブサイトがある。情報公開請求で集めた全国の公立高校の校則を公開している「全国校則一覧」だ。サイト運営を始めた2021年秋から現在までに、校則データを公開した高校の数は、なんと1400以上に上る。

公立高校の校則を検索できるウェブサイト「全国校則一覧」。学校名や都道府県などで検索できる
(写真:「全国校則一覧」ホームページ)

同サイトは「Change of Perspective(チェンジ・オブ・パースペクティブ)」という団体が運営しており、インターネットを通じて集まった有志の中高生や大学生、大人のボランティア15人が管理・運営に携わっている。この活動を率いるのが、代表者の神谷航平さん(17)だ。群馬県在住の高校2年生である。

神谷さんが校則に関心を持ったのは、中学生のときだ。通っていた公立中学校には「下校後に午後4時までは外出してはいけない」という決まりがあったが、「なぜ下校後の行動を学校に決められなければならないのか」と疑問を抱き、Twitterに思いを書き込むようになった。

「そんな自分の投稿を読んだ人からさまざまなアドバイスがある中で、校則を調べるには情報公開制度の開示請求が使えることがわかったんです」と、神谷さんは話す。

そこで中学3年生のとき、市内と周辺自治体、東京都などの公立中学校の校則について初めて開示請求をしてみた。ほかの中学校の校則と比較し、それを材料に自分の学校の校則を変えてみたいと思ったからだ。最終的に校則変更はうまくいかなかったが、高校進学後、今度は全国の公立高校を対象とした校則一覧化に乗り出した。その狙いについて、神谷さんは次のように語る。

「データに基づいて校則を議論できることが全国校則一覧の何よりのメリット。学校と生徒が話し合う機会を持ったり、保護者や地域の方を交えて対話したり、あるべき校則をみんなで考える場づくりにつながれば、と思っています。また、高校受験生や保護者の方にもぜひ、学校選びの1つの指標として参考にしてもらいたいです。想定外に校則が厳しく不登校になってしまう子もいるので、そういったミスマッチも防げるのではないかと考えています」

学校は「社会の縮図」、校則は「社会課題の教科書」

活動を始めてから1年余り。サイトの管理・更新などは他のメンバーが担ってくれているが、情報公開制度を利用した開示請求の作業は神谷さんが1人で行っているという。

「開示請求の作業は放課後に行っています。自治体とのやり取りは基本的に電話です。当初はびくびくして本当に開示請求ができるのか、戸惑っていました。しかし、やってみると意外とできました」

しかし、校則を集めるのは、決して楽な作業ではない。例えば、校則データはなるべくCD-Rでの提供を自治体に依頼するが、紙でしか対応できないと言われる場合も少なくないという。対応も、自治体によってばらつきがある。

「ある県では、県庁内に校則を保管していないという理由で不存在を理由にした不開示決定を出されて驚いたことがあります。一方、愛知県のように、費用を取らずに情報提供の形で対応してくださる場合もあります。自治体によって対応が大きく変わることを実感しています」

情報公開請求で集めた校則データ
(写真:神谷さん提供)

校則をデータベース化することでいろいろなことも見えてきた。

例えば、就職する生徒が多い商業高校や工業高校は校則が厳しい傾向にある。当初は偏差値の低い学校の校則が厳しいと思っていたが、偏差値による差異はあまりなかった。また、「全日制で校則がない学校の多くに、『自由を獲得した結果、本校には校則がない』といった内容の記述が見られ、学生運動が盛んだった頃の歴史が感じられます」と、神谷さんは説明する。そのほか、地域性も見られるという。

「靴の色を指定する地域もあれば、そうでない地域もあります。免許を取らない、乗らない、買わないというバイク利用を禁止する“三ない運動”をスローガンにしている地域が今もあります。このように、地域性はありますが、過去にPTAや学校の要望でつくられた校則が、今の時代にそぐわなくなっている例は全国で見られます」

中学生のときに入手した中学校の校則と比べると、高校よりも中学校のほうが校則は厳しい印象だという。例えば、日焼け止めを使うに当たって、生徒指導の教員の許可や医師の診断を求める中学校もある。

一方、高校では中学校に比べ、旅行届の提出を求める校則が圧倒的に多いそうだ。「家族旅行なども含めて学校外のことまで把握する必要性はどれだけあるのか、実際どのくらいの生徒がちゃんと旅行届を出しているのか気になります」と神谷さんは言う。

神谷 航平(かみや・こうへい)
Change of Perspective代表
2021年からウェブサイト「全国校則一覧」を運営
(写真:神谷さん提供)

神谷さんは、「校則は社会課題の教科書」だと表現する。毎日学校に通うことを美徳とする皆勤賞や、男女で差異のある服装・頭髪の規定などが顕著な例だという。

現在、働き方改革の流れやコロナ禍による社会の変容などから、無理せず心身の健康を重視する価値観が主流になりつつある。そのため、「多様化する生徒の心身に配慮するためにも、皆勤賞は必要性を問いたい」と神谷さんは指摘する。

また、ほとんどの学校で服装や頭髪の規定があるが、男女別に靴下の色の指定があったり男子は長髪禁止だったりと、性別によって規定が異なることにも疑問を感じるという。「規定は男女別に設けるのではなく、同じにすべき。また服装をフリーとする企業も増えており、徐々にでもよいので、学校もTPOに合っていれば制服も含めて服装は自由となるべきではないでないか」と神谷さんは考えている。

「世界ではジェンダーや多様性などが尊重される流れにありますが、日本はまだまだといわれます。とくに学校は保守的でアップデートが遅く、校則も変わることがほとんどありません。学校は社会の縮図であり、校則がまさにその象徴となっているのではないかと思います。学校や先生たちと、この時代を生きる高校生たちとの間で大きなギャップが生まれています」

こうした中、新たな生徒指導提要では、校則のホームページでの公開や、見直しの手続きを定めるのが望ましいこと、少数派の意見も尊重することの必要性など、児童生徒の権利が重視される内容が盛り込まれた。

神谷さんも、「校則を変える校則」が必要だと語る。ただ、単純に校則がなくなればいいとは思っていない。社会に法律や条例があるように学校にもルールは必要だと考えており、「校則を変えたいならば、学校はもちろん、保護者や地域とも話し合い、変えていくことが大切。そのためにも、『校則を変える校則』が必要」だと強調する。

「生徒指導提要については僕も自治体とお話をすることがありますが、具体的な取り組みは検討段階にあり、現場への浸透には至っていないと思います。こうした現状からも、全国校則一覧を、校則を変える1つの材料にしてもらえればと思っています」

今後は県ごとの調査結果を順次公開するほか、関東、東日本、全国など、エリアごとの比較分析も行っていきたいという。

2023年1月までに公開予定の県ごとの調査データの例。グラフは群馬県の76課程(60校)の通学用服の調査結果
(資料:神谷さん提供)

全国校則一覧の活動を継続するため「NPO法人化」へ

不登校やいじめの要因の1つが厳しい校則にあると指摘する専門家や、校則ではないものの学校に存在する細かな決まり事や「学校(学級)スタンダード」が主体性を奪っていると警鐘を鳴らす識者もいる。

神谷さんも「ウラ校則のようなものがあることはとても問題だ」と捉えており、全国3300校超の公立高校の校則を網羅したあとは、中学校の校則や小学校のルールの一覧化なども検討していくという。

神谷さんは現在、校則一覧化を継続的に行うため、運営団体のNPO法人化を進めている。審査が通れば23年3月ごろには実現できる見通しだ。

神谷さんの活動を、「進学のための実績づくりではないか」と見る人もいる。今は静かに見守ってくれている両親も、当初は「なぜそんなことをするのか」とあまり好意的ではなかった。それでも校則の一覧化を進めてきたのはなぜか。

「校則に興味があるということもありますが、活動が純粋に楽しいんです。サイトを公開してからは、見てくれる人の数が増えていますし、高校生や教員の方から『校則を変える材料として使いたい』『授業で活用したい』というお問い合わせもいただき、とてもうれしいです」

最後に、神谷さんに活動を通じて得たこと、そして、将来の夢や目標について聞いてみた。

「自分ではできないと思うことでも、やってみれば意外とできるという経験をしたことが大きいですね。周囲の目を気にしたり、難しいと思ったりしても、やってみると応援してくれる人もいる。おかげで何事も楽観視できるようになりました。今後は、大学で教育学や社会学を勉強してみたいです。高校の探究学習を通じてオルタナティブスクールの運営に興味を持ち、現在は多様な教育を探究テーマとして少年院などにも足を運んでいます。ただ、将来については夢や目標があまりないタイプなんです。その日その日を全力で楽しみながら生きていきたいと思っています」

(文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)