HubSpotの調査に見る「デジタル神話の終焉」 企業が直面「3つの分断」と、つながりの価値

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今や、営業やマーケティングにデジタルを活用するのはビジネスの常識である。しかしコロナ禍や急激な円安など、世界を取り巻く環境は目まぐるしく変わる中、戦略を変える必要が出ているようだ。実はこれは世界的な傾向で、背景には企業を襲う「3つの分断」がある。「インバウンド」の思想を提唱し、CRMプラットフォームを提供するHubSpotの独自調査、そして同社主催のイベント「INBOUND 2022」から、分断を乗り越えるためのヒントを探っていこう。

投資に見合った利益が得られる「デジタル神話」の終焉

デジタルを活用して新規顧客の開拓や既存顧客とのコミュニケーションを強化してきた企業も、直近は困難に直面するようになっていることが、HubSpotの調査で明らかになった。

HubSpotは2022年7~8月、米国や日本、英国、ドイツ、シンガポールなどの9カ国で、CRM意思決定者1702人を対象に調査を実施。「あなたの組織が現在直面している最大の課題は何か」と質問したところ、最多回答は「費用が高すぎる」、次いで「見込み客・顧客にリーチするためのコストの増加」だった(図1)。

ビジネス上の主な課題

これは想定の範囲だろう。企業はこの数年で、顧客接点強化や業務効率化を狙って次々とデジタルツールを導入してきた。ツールが増えれば、その導入費用はもちろん、運用などに関連する人件費が膨らむ。実際、この調査で使用ツール数と総コストの関係を分析したところ、使うツールの数が多いほど、ツール活用のための人件費増加によってコストが増えていた(図2)。

使用している顧客管理ツールの数と総コストの関係
※端数を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合があります

ツールを運用管理するためのコストが膨らんでも、それに見合う効果があれば問題ないはずだ。しかし、課題を尋ねた質問で3番目に多かった回答は「成長の鈍化」だった(図1)。ツールに多額の費用をかけても、それが企業の成長に結び付きづらい状況になってきたことが読み取れる。デジタル投資をすれば必ずそれに見合うリターンが得られるという「デジタル神話」は、もはや崩れているようだ。

「3つの分断」が企業を苦しめている

企業と顧客とのコミュニケーションや企業の業務効率化を強くサポートするはずのデジタルツールの効果が、なぜいま薄れ始めているのか。HubSpotの最高経営責任者、ヤミニ・ランガン氏は、同社が主催したイベント「INBOUND 2022」に登壇し「企業は3つの分断に直面している」と分析した。

HubSpotの最高経営責任者、ヤミニ・ランガン氏
ヤミニ・ランガン
最高経営責任者(CEO)

1つ目の分断は「システムの分断」だ。顧客との接点を増やしたり、業務効率化したりするため、多くの企業が部分最適を目的とした複数のツールを導入したことは前述のとおりだ。部門やチームごとに異なるツールを導入しているケースも多々あるだろう。

「企業が利用しているSaaSツールの数は、平均で242にも上ります。しかし、真の課題はツールの多さではなく、それらが連携されていないことです。データの所在やアクセスするためのプロセスがツールごとに分断していて、1つの場所に集約されていない。そのため、担当者はデータを整理したり有益な情報を複数のシステムからピックアップしたりする作業に追われ、コア業務に割くべきリソースが犠牲になってきました」(ランガン氏)

2つ目は、「人と人の分断」だ。とくにコロナ禍を経て、ソーシャルディスタンスやリモートワークをはじめ、人と人を物理的に分け隔てる文化が生まれた。ランガン氏は、自身の経験をこう語る。

「業務上の人間関係の構築が、以前より難しくなったと感じます。つながりを求める思いは、顧客も同じ。職場の同僚や仲間とのつながりを深めたいと願いながら、その難しさを痛感している人は多いでしょう。例えば、コロナ禍で人気を集めたオンラインのフィットネスサービスは、単に運動ができるという機能だけでなく、コミュニティーとしての価値が魅力になっているといわれます」

「INBOUND 2022」
HubSpotが2022年9月、ボストンで開催したビジネスイベント。年次イベントである「INBOUND」の開催は今年で11回目を迎え、今回は3年ぶりにリアルでの参加を解禁して、オンラインとのハイブリッド開催になった。150以上のセッションがあり、161以上の国と地域からリアル会場1万人を含む4万人以上が参加するグローバル企業ならではの大規模な開催となった。

そして3つ目が「企業と顧客の分断」だ。企業がどれだけ熱心に情報発信をしても、顧客からいい反応が得られにくくなってきた。HubSpotのデータによれば、営業メールに対する顧客の反応率は、コロナ禍前と比べて40%下落しているという。過去の成功体験をなぞっても、顧客とのいい関係性は築けないようだ。

「これには2つの原因があって、1つはデジタル疲れ。私たちの周りには情報があふれかえっており、購買行動においても、毎日大量に供給される情報の中から取捨選択しなければなりません。もう1つは、プライバシー意識の高まりです。サード・パーティー・クッキーの利用規制もあって、個人情報の取り扱いには一段と厳しい目が向けられるようになっています」(ランガン氏)

システムが乱立して、人間同士の交流が減り、顧客は企業と距離を取る――。これら3つの分断が、企業の成長を鈍らせている。

企業が顧客と「つながり」を構築するための処方箋

顧客との関係構築手段として、CRMのようなツールの導入を検討する企業も多いだろう。ただし、単にツールを導入するだけで3つの分断を乗り越えられないことは、すでに指摘したとおりだ。では、これらを乗り越えてビジネスの成長を加速させるに当たり、企業はどうすればいいのだろうか。

「単に顧客データを”管理する”だけの、従来のCRMでは限界があります。今必要なのは、データを1つのプラットフォームに統合し、カスタマージャーニーを一元的に把握できるCRMです。それでこそ『データ・チーム・顧客』の3方向と、深い関係を”つなぐ”ことができると考えています」(ランガン氏)

今回の調査でも、CRMの統合レベルが高いほど、データの接続性が高まり(図3)、さらにROI(投資利益率)が上がることが明らかになった(図4)。HubSpotのCRMプラットフォームは、この3つの領域につながりを持たせるよう意識して開発されており、連携性や統合性に特長がある。

CRMの統合レベルと、データ連携の関係
CRMの統合レベルと、投資収益率の関係

ビジネスパーソン同士のつながりをサポートするという点では、コミュニティーの存在も重要だ。HubSpotは無料のeラーニングプログラム「HubSpotアカデミー」を提供している。これはマーケティングや営業に関する専門スキルをブラッシュアップするもので、HubSpotユーザーにとどまらず多くのビジネスパーソンのリスキリングにも活用されている。

もちろん、同アカデミーの魅力はスキルアップだけではない。志を同じくする人同士が共に学ぶことで支え合い、刺激を受けることもできる。同アカデミーの認定資格は、すでに世界25万人以上のビジネスパーソンが取得しているという。

また、オンライン上のユーザーコミュニティー「日本語版HubSpotコミュニティー」では、ユーザー同士がビジネス課題のヒントやツールの使い方を共有し共に成長できる機会を提供している。

分断が起きやすい世界で、ツール導入やコミュニティーづくりを通していかに「つながり」をつくっていくか。今後はこの点が、成長する企業とそうでない企業の分水嶺になっていくだろう。

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