企業成長の鍵「オペレーション改革」の2大効果 事業継続性と顧客体験向上を両立させるには?

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2021年9月のデジタル庁発足に象徴されるように、日本でもDXの動きが加速している。しかし、企業から聞こえてくるのは「ITツールを導入したが、どうも使いこなせていない」「社内オペレーションの負担は軽減されたが、利益につながっていない」といった声だ。うまくいかない理由はどこにあるのか。そもそも、オペレーション部門は事業全体の中でどのような役割を果たしているのか。Magic Moment代表取締役CEOの村尾祐弥氏と、HubSpot Japan共同事業責任者の伊佐裕也氏に、オペレーション改革の勘所について語り合ってもらった。

オペレーションの本質は多くの企業で誤解されている

――オペレーション改革に取り組む企業が増えています。

Magic Moment
代表取締役CEO
村尾 祐弥

村尾:オペレーションとは「ある決まったプロセスを回すこと」です。例えば寿司店なら、顧客が入店してきたら席に案内してお茶を出し、職人がネタを選んで寿司を握り始めるといった流れがオペレーションです。

伊佐:BtoBを含むビジネスの現場も同じで、マーケティングや営業、カスタマーサービス、バックオフィスなど、あらゆる部門にオペレーションが存在します。しかし問題なのは、多くの企業でオペレーション設計や最適化の業務が重要視されていないということ。またオペレーション部門はそのクオリティーが顧客体験と直結するにもかかわらず、往々にして顧客との距離が遠いことも問題です。

村尾:オペレーションは単なる後方支援、あるいは単純作業だと誤解されがちですが、むしろビジネスの中核に据えられるべき重要な部門です。オペレーションの質を見直すと2つの大きな効果が期待できます。1つ目は、業務効率を上げて利益率を高められること。2つ目は、経営の一丁目一番地である、顧客にとっての価値の総量を増やせること。

伊佐:企業が長期的成長を目指すとき、顧客と長期的な関係を築き顧客の成長に貢献することで自社も成長するという考え方が欠かせません。オペレーションの質が低ければ顧客体験は損なわれ、自社の業績にも影響を及ぼすでしょう。

「事業の継続性と、顧客体験の向上」その両立が重要になる

HubSpot Japan
共同事業責任者
シニアマーケティングディレクター
伊佐 裕也

伊佐:当社は、オペレーション業務の具体的な内容を3つの「P」から始まるキーワードで表現しています。まず業務支援システム管理を指す「プラットフォーム」。そして業務フローを構築し最適化するのが、2つ目の「プロセス」。さらにシステムに集約されたデータを分析して戦略を立てるのも重要なオペレーション業務で、これを「パースぺクティブ(示唆)」と呼んでいます。

村尾:日本企業の現状としては、各事業部門がバラバラにオペレーションを行っているケースが多いようです。例えば、プラットフォームは情報システム部門、プロセスは各部門、パースペクティブは経営企画部門、といったように。

伊佐:当社が経営者や法人営業責任者・担当者に行った営業に関する意識調査の結果を見ると、「顧客の属性や自社とのやり取りなどを記録する顧客管理の方法」について約3分の1が「明確ではない・わからない」と回答しました。これは「社内の顧客関連情報が一元管理できていない」というオペレーションの問題です。

村尾:大切なのはゴール設定ですね。寿司店がオペレーション改革をして、オーダーから商品提供までのリードタイムを縮めれば、回転率が向上して売り上げが上がるでしょう。それも大切ですが、同時に「新鮮な寿司を早く食べられるとうれしい」という顧客体験も重要です。日本企業のオペレーション業務に関しては、①そもそも改善の必要性が見落とされている、②企業の「自分たち主語」で実施されがちである、③データが適切に使われていないという3点が問題だと考えています。これらを解決しようとするなら「事業の継続性」と「顧客体験の向上」の両立をつねに意識するべきだと思います。

オペレーションの質向上には「サイエンス」だけでなく「アート」の観点が必要

――企業からは、「ツールを導入したが、期待した成果が出ない」という声がよく聞かれます。何が原因でしょうか。

伊佐:ツール導入はオペレーション改革のごく一部にすぎないからです。理想のオペレーションをつくるには「チーム」「戦略」「システム」「動機づけ」という4つの領域で社内連携が必要です。例えば各部門の「動機づけ」の方向性がバラバラならば、顧客体験や自社の業績にインパクトを生み出すのは難しいでしょう。

村尾:システムがバラバラで、蓄積されたデータを正しく使えなければ、戦略立案も「予測」ではなく「予想」に基づいたものになってしまいますね。また「チーム」の連携で言うと、欧米の先進的な企業は各部門にオペレーション担当者を置いて互いに連携させ、「オペレーション=後方支援部門」という位置づけから脱却し始めています。

伊佐:当社は2020年にマーケティング、営業、カスタマーサービス各部門のオペレーションチームを統合・再編しました。顧客に関するデータの分析だけでなく、お客様と直接お話ししてオペレーションの戦略や将来像を決め、各部門に広げていく組織に変えたんです。当社のように新組織にするかどうかはともかく、顧客対面部門のオペレーションチームは関連部門横断で設置し、ビジネスの中核に置くべきだと考えます。こういった要素は再現性のある「サイエンス」の領域で、一定の手順にのっとって行えば、確率論で効果が見えてきます。しかし、「アート」の観点も忘れてはいけません。

村尾:顧客との関係づくりに、再現性はありません。「こういう角度でオペレーションを見直すとお客様に喜んでもらえるのではないか」と気づく感性や、導かれた法則を信じて前向きに実践していくマインドはHubSpotの皆さんがおっしゃる言葉で表現すれば「アート」、つまり組織のカルチャーや理念、価値基準の範疇です。逆にどんなに優れたサイエンスも、アートの要素抜きに十分に使いこなすことはできないのではないかと私も考えています。

感性の育成もオペレーション改革も日々の積み重ねから

伊佐:データ分析は実は、右脳的な感性が必要になる典型的な分野です。データの向こう側には必ず人がいる。それを忘れて分析しても、顧客体験の向上にはつながりません。当社も、「Solve For The Customer(顧客の成功のために尽くす)」という価値基準を掲げて全社で共有し、「サイエンス」の領域を実践する前提条件としています。

村尾:以前、伊佐さんと一緒に働いていた頃のエピソードを思い出しました。当時伊佐さんはマーケティング責任者で、CAC(顧客獲得単価)が高いことを社内から指摘されていました。しかし「どんな顧客が自社製品に価値を感じてくださっているのか」という視点でデータを分析し直してみると、製品の無料期間中にある機能を使っていないユーザーは有料版への転換率が顕著に低く、逆にその機能を使っている顧客はロイヤルカスタマーになっている率が高いとわかった。その機能を顧客に勧めていなかった営業部門に問題があったんです。データを生かすも殺すも、その向こう側にいる人の存在を感じられるかどうか次第だと改めて感じた一件でした。

伊佐:まさにそうですね。問題は、そのような感性をどうやって育てていくか。すべてが天性の才能というわけでも、偶然の産物というわけでもありません。メンバーの感性を育てるなら、組織的な取り組みが必要です。

村尾:飛び道具的にキャッチーな標語を掲げるだけでは、カルチャーにはならない。「いい企業文化が社員にも浸透しているな」と感じる企業を詳しく調べてみると、企業文化を体現した従業員を表彰する制度や社内で価値基準を定期的に議論する機会を設けており、どの企業も驚くほどの熱意でカルチャーの醸成と定着に取り組んでいます。企業風土や個人のアート的感性は、毎日の積み重ねによってしか育たないと思います。

伊佐:オペレーション改革が頓挫しやすいのも、そこに原因があるのかもしれません。オペレーションにはアートが欠かせず、そしてアートは日々の営みからつくられます。オペレーション改革を狙う経営者には、長期的に向かい合う覚悟を持って取り組んでいただきたいですね。

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