企業DX、日米で「23ptもの大差がついた」原因 HubSpotが語る、企業の「顧客中心」を阻む壁

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近年DXに本腰を入れ始めた企業は多いが、日本は海外と比べてDXが立ち遅れているといわれる。また、DXを進めたものの単なる業務効率化にとどまっていて、競争力向上といった本質的な価値を生むところまで到達していないケースも目立つ。なぜ日米で大きな差が生まれているのか。2006年に米国ボストンで創業し2016年に日本法人を設立しているCRM(顧客関係管理)プラットフォーム企業・HubSpotの共同創業者、ダーメッシュ・シャア氏に話を聞いた。

外部環境の変化を「チャンス」と捉えられるか?

日本は、世界に比べて企業のDXが遅れている――。認めたがらない人がいるかもしれないが、これは紛れもない事実だ。「DX白書2021」(※)によると、DXに取り組んでいる企業は日本が約56%であるのに対して、米国は約79%と、実に23ポイントもの差がついている。

なぜ日米で、これほど大きな差がついたのか。原因の1つは、外部環境の変化に対する認識の違いだろう。同白書で、4つの外部環境変化を「事業機会(チャンス)」として捉えるかどうか質問したところ、「非常に強い影響があり、ビジネスを変革させ最優先で影響に対応している」と回答した企業の割合は、いずれも米国が日本を上回った。

とくに差が大きかった環境変化は「パンデミック(日本15.5%、米国36.3%)」「技術の発展(日本10.4%、米国26.8%)」。日本企業は、コロナ禍やイノベーションによるデジタル技術の刷新を、自社の成長に結び付けようとする意識が乏しいことが明らかになった。

チャンスとして捉えられていないのは、DXの流れについても同様だろう。日本企業からは「コロナ禍で出社できなくなり、仕方なくリモートワーク環境を整えた」「コストが低いから、社内システムをクラウドに切り替えた」といった声が漏れ聞こえてくる。DXを従来のIT化の延長と考えており、デジタル活用で事業を変革し、新しい価値を生み出す姿勢が不足している。

HubSpotが考える、DXと「顧客中心主義」の関係

HubSpot 共同創業者
ダーメッシュ・シャア

では、企業のDXによって生み出される価値とは、具体的に何なのか。そのヒントとなるのが、HubSpotが2021年10月に行ったイベント「INBOUND2021」だ。同イベントのセッション中、同社の共同創業者ダーメッシュ・シャア氏が挙げたのは、「上質な顧客体験」だ。

「顧客が企業に期待しているのは、『摩擦や無駄がない顧客体験』です。ここにビジネスの規模や商材、リソースの量などはいっさい関係なく、もはやどの企業にとっても無視できるものではありません。DXは、DXそのものを目的にするのではなく、『上質な顧客体験をつくる』ことをゴールに据えて進められるべきです」

「INBOUND2021」
HubSpotが2021年10月に開催した、オンラインビジネスイベント。スピーカー250人以上、参加国・地域110以上と、グローバル企業ならではの大規模な開催となった。ダーメッシュ・シャア氏はキーノートセッションを行った。「インバウンド」とは、「相手から価値を受け取る前にこちらから価値を提供する」という考え方であり、同社が創業時からマーケティングや営業などの各領域で提唱しているもの。

同社は同様のイベントを年次で開催しており、インバウンドの思想に基づいたマーケティングや営業、カスタマーサービス活動の意義、重要性について世界で訴え続けている。


 顧客体験と聞いて、「うちは、いい顧客管理システムを導入しているから大丈夫」と胸を張る企業もあるかもしれない。しかし、そのツール導入が本当に顧客体験の向上につながっているかどうかについては、熟考が必要だ。ダーメッシュ氏は、自身が高級車をリースしたときの実体験を明かしてくれた。

「リースの申し込みはWebサイトからスムーズにできて、優れた購買体験になりました。しかし、最初の月額料金の支払いでつまずきました。アプリやWebサイトからは入金ができず、問い合わせ一覧を見ても、該当する解決法はなし。Web上で問い合わせたところ、『カスタマー部門にお電話を』。車自体はいいものでしたが、顧客体験全体としては残念でした」

ツールをそろえ、いざDXに取り組むも、自社内の業務プロセス最適化や作業削減といった「アナログ→デジタルへの進化」にとどまっている企業は多い。しかしそれでは、顧客体験の向上には結び付かず、DXの真の目的を果たすことはできない。顧客体験を軸に社内の意識を変え、競争力を高めることができて初めて、「DXを実現した」といえる。

「CRM(顧客情報管理システム)が営業担当者のためだけのツールになっていて、顧客満足をつかさどるカスタマーサポートチームと分断されている例がよく見受けられます。多くの企業は自社を中心として顧客との関係を考えていますが、本来は顧客を中心に据え、社内の関心を『顧客』に集中させるべきです」

前述の「DX白書2021」によると、「経営者・IT部門・業務部門の協調」について、「十分にできている」「まあまあできている」と回答した米国企業は86.2%だった。それに対して、日本企業は39.9%と、なんと半分以下だ。

「まずは自社において『顧客中心』が具体的にどのような行動に当たるのか、企業の経営層からマネジメント、IT部門、業務部門など全社が共通理解を持つことが大前提。そのうえで、ツール導入だけではなく組織、戦略、インセンティブ設計の変革と併せてDXを推進しなければ、社内の最適化はおろか上質な顧客体験を実現することはできないでしょう」

顧客中心の「フライホイールモデル」という発想

ではどうすれば、全社が「顧客中心主義」の下で上質な顧客体験をつくっていけるのか。それを阻む壁の1つが、マーケティングの世界では一般的とされている「ファネル」という考え方だ。

ファネルモデルは、多くの見込み客を惹きつけて、自社の顧客へと変えるように設計された線形のモデルだ。ファネル(漏斗)の形状が示すとおり、各段階を経過するたびに先細りして、見込み客が減っていく。「購買」がただ1つのゴールになっており、最終的に購買まで至る見込み客はごく一部だ。

一方、HubSpotが推奨しているのが、循環型の「フライホイール」という考え方である。

「フライホイールは、顧客を中心に置いて、それを取り囲むようにマーケティング、営業、カスタマーサービスの各部門が手を取り合って顧客体験をつくっていくモデルです。顧客と良好な関係を築くことで顧客の満足度を高め、それを原動力にフライホイールを回転させていく。これこそが企業の本質的な成長につながるのだと確信しています」

フライホイールモデル。満足した顧客が口コミなどで新たな顧客を惹きつけてくれるため、自社と顧客両方にメリットをもたらすことができる

HubSpotのCRMプラットフォームはすべて、このフライホイールのコンセプトに基づいて設計されている。例えばカスタマーサービスが営業履歴を見て質の高いサポートをしたり、カスタマーサービスと顧客のやり取りを踏まえてマーケティング部門が顧客に情報発信するなど、どの部門も同じ顧客データを見て効果的な施策を打つことが可能だ。さらに重要なのは、HubSpotが、企業と顧客をつなぐ機能をも強化している点だろう。

「当社は2021年10月、顧客自身がログインして自分の情報を確認できるカスタマーポータルや、決済機能を実装(現在は米国のみ)。こうした機能追加はすべて、顧客を中心に置いて行っています」

機能がこれだけ続々追加されると、操作が複雑になるのではと心配するユーザーもいるだろう。しかしダーメッシュ氏は「HubSpotは、使いやすさと高い機能を両立したCRMプラットフォーム。スタートアップから中規模の企業までカバーしています。誰でも、パッと見て直感的に使いこなせるUIです」と胸を張る。

しかも、使いやすさの対象は社内ユーザーにとどまらない。「CRMは、社内で使いやすいだけでは不十分。使いやすさの概念を『顧客にとってのメリット』にまで拡大して考えることで、企業は優れた顧客体験を提供できます。これからもイノベーションを続け、世界中の企業、さらにはその先にいる顧客に貢献していきたいです」。

顧客起点の姿勢が、長期的に自社の成長につながる。グローバル企業・HubSpotの思想から、学ぶ事は多そうだ。

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※2021年10月、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)刊行