わが子のタブレット端末の利用から見えてきたこととは?

2022年7月13日、4歳~12歳の子どもたちを対象としたSNS「4kiz」が、サービスを開始した。

2022年7月13日、子ども向けSNSアプリサービス「4kiz」がリリース
(写真:4kiz提供)

そのサービスとは、子どもたちが自身で作った作品や日常で発見したことなどをショート動画の形で投稿してシェアできるというもの。スマホやタブレットで利用できる無料のアプリサービスで、まずはAndroid版の提供をスタート、iOS版も近日リリース予定だ。

サービスを提供する4kizは、21年12月に株式会社として設立されたばかりのスタートアップ企業だが、いったいどのような経緯で生まれたのだろうか。

創業者の本山勝寛氏は、貧困家庭に育ち、高校1年生から親が家にいない中、アルバイトで生計を立て、塾や家庭教師にいっさい頼らず独学で東京大学と米ハーバード大学院に合格したという人物だ。

大学院では世界の教育を研究、その後は日本財団に入り、教育や人権、国際協力、障害者支援、パラリンピック支援、子ども支援事業を手がけた。これまで立ち上げた新規事業は30以上に上り、パラリンピックサポートセンターのディレクター、子どもサポートチーム、人材開発チームのチームリーダーを歴任して2021年11月に退職、翌月会社を設立した。

本山 勝寛(もとやま・かつひろ)
4kiz代表取締役CEO
東京大学工学部システム創成学科知能社会システムコース卒業。米ハーバード教育大学院国際教育政策修士課程修了。2021年11月に日本財団を退職、同年12月同社を創業。5児の父親で、育児休業を4回取得。『そうゾウくんとえほんづくり』(KADOKAWA)、『自分でできる子になる好奇心を伸ばす子育て』『最強の独学術』(ともに大和書房)、『今こそ、「奨学金」の本当の話をしよう。』(ポプラ社)など、「学びの革命」をテーマに著書多数

これまでも教育イノベーターを名乗り自身の教育論を発信してきた本山氏だが、なぜ子ども向けのSNSに目をつけたのだろうか。

「私には13歳から4歳までの5人の子どもがいますが、彼らはコロナ禍の臨時休校を機に、多くの子どもたちと同様にタブレット端末を使うのが当たり前になりました。その様子を見てテクノロジーの可能性を感じる一方、娘が描く漫画や絵を投稿する場があるのか改めて調べてみたところ、大人が使うSNSは12歳以下だと使えないことに気づきました。このとき、もし子どもたちが自分のアウトプットをシェアできる場があれば、子どもたちの可能性はもっと広がるかもしれないと思ったのです」

また、本山氏は当時、日本財団において全国約100拠点で子どもたちの居場所づくりに尽力していたが、コロナ禍によってイベントなどが制限され、やむなくオンラインプログラムを導入することに。しかし、これによりかえってできることが増えたほか、しだいに地域を超えて子どもたち同士でつながりたいとの声も聞こえてくるようになったという。

「こうしたニーズは今後高まると思われるのに、インターネット上で子どもが安心・安全につながりを持てる場を誰も提供していない。ならば、自分でつくろうと思いました」と、本山氏は話す。

今後は自分で考えて何かを創造し、それを発信して他者とコミュニケーションを取っていくアウトプットが大切だといわれるが、「今の子どもたちは学校でも塾でもインプットの機会が多く、ゲームや動画視聴など受動的な娯楽の時間も長い。教育的観点からも自らアウトプットをしたくなるような場にしたい」と、本山氏は考えた。

目指すのは「世界中のすべての子どもたちに、つながりと楽しい学びを届けるオンラインプラットフォーム」。実現のために、クラウドファンディングおよびメルカリ取締役会長の小泉文明氏など国内外の個人投資家7名から資金を集め、4kizを立ち上げたというわけだ。

既存のSNSには十分備わっていない「安心・安全」に配慮

では、具体的にはどのようなサービスを提供しているのだろうか。大きな特徴は4つある。

1つ目は、創造性を育もうという視点だ。絵や漫画、ブロック、料理、昆虫や植物の観察、絵日記、作文、自由研究、折り紙、歌、演奏、プログラミングなどの創作品、あるいはペットの様子や風景、日常生活の一コマなどを5秒から60秒の短い動画で投稿し、シェアできる。動画には、テキストやスタンプを載せるなどの編集も可能だ。

創作品のほか、日常生活の中で発見したことなども動画で投稿できる
(写真:4kiz提供)

2つ目は、好きなことでつながり合えること。子どもたち同士で「いいね」をつけたりコメントし合えたりするほか、ハッシュタグやフォロー、トレンド機能、レコメンド機能などでつながりを促進し、健全なコミュニティーの醸成を狙う。また、子どもたちの学びに役立つコンテンツやプログラムを有する企業・団体、クリエーターや専門家などの公式アカウントともコミュニケーションが取れるようにしていく。

「子どもは自分で何かを作ると反応が欲しくて『見て、見て』と言いますが、親は忙しくて対応できない場合も多い。自分の創作品を投稿することで、子どもたち同士で刺激し合い、発想力や発信力、表現力といった、いわゆる非認知能力を高める場にしたいと考えています」

3つ目は、家族間でのコミュニケーションも可能であること。父母はもちろん、祖父母などの親族も家族ユーザーとして招待でき、家族内限定でコメントし合えるコメント欄も設けている。

そして4つ目が安心・安全な設計を実装していること。「ここが既存のSNSとは異なる大きな点」だと本山氏は言う。SNS利用の低年齢化やそれに伴う小学生のSNSいじめの急増、SNSを通じた性犯罪の増加など、近年の社会背景を踏まえ、安心・安全に配慮した。

まず4kizの利用登録は、保護者の承認が必要だ。保護者が管理アカウントを開設したうえで、それにひも付く子どものアカウントを作るプロセスを経て初めて利用が可能となる。

氏名はニックネームを使い、プロフィール写真は顔のイラストパーツを自由に選んでアバターを作成することもでき、子どもたちのプライバシーが保護されるよう配慮した。

また、誹謗中傷やいじめにつながると思われるNGワードを設定。例えば「死ね」といった言葉は書き込めない。犯罪リスクを抑えるため、1対1のダイレクトメッセージの機能は採用せず、不適切なやり取りなどがあった場合に報告できる機能を設けた。

ペアレンタルコントロール機能も搭載し、投稿の公開前に親が確認するか、利用時間を制限するか、コメントやフォローなどの機能の利用を可能にするかなどについて、保護者のアカウントで設定できる。「親子で話し合い、一緒に取り組みながら、SNSのリテラシーを身に付けていただきたいです」と、本山氏は話す。

そのほか、子どもの利用画面に表示される広告も、SDGsに関連する内容やコンテスト情報など子どものためになるコンテンツを厳選して掲出する方針だ。

ユーザー名はニックネーム、プロフィール画像もアバターの使用が可能(左)。ペアレンタルコントロール機能もある(右)
(写真:4kiz提供)

さらに興味深いのが、「最高ソウゾウ責任者(CIO)」というポジションをつくり、小学生を起用していること。4kizは「こどもの、こどもによる、こどもたちのSNS」を掲げているが、まさにその言葉どおり、子どもの発想を運営に生かすため候補者を公募した。

選ばれたのは、CIOは東京都在住で小学5年生の瑞希さん、副CIOは北海道在住で小学6年生の晏理さん。2人は4月から活動を開始しており、任期終了までの1年間、毎月の企画会議に参加し、アイデアの提案や発信を行っていく。

CIOの瑞希さん(左)。副CIOの晏理さん(右)
(写真:4kiz提供)

「小学生の発想は本当に面白い」と。本山氏。例えば、公式キャラクターの「フォービット」の原案や、今夏予定の特別企画「#つながる自由研究」なども2人のアイデアを反映した。「言葉遣いがわかりにくい」「ハッシュタグを複数入れられるように」など、SNSの機能面についてもデジタルネイティブならではの意見を出してくれるという。

すべての子どもたちが「つながり学び合える場」に

今後、国内の子どもの会員数は2025年までに100万人、将来的に400万人を目指す。ワークショップの開催など学校との連携にも着手し始めており、ゆくゆくは学校で配付されている1人1台のGIGA端末にも4kizが入っている状態にしたいと本山氏は語る。

「学校で作る作品も校内の掲示にとどめず、他校の子どもたちともシェアできれば大いに刺激になるはず。大人同士はネットでつながっているのに、子どもは主に学校と家庭という非常に狭い世界に閉じ込められていると言えます。そういった意味でも、4kizで子どもたちが広い世界とつながることができれば、もっと好きなことを伸ばしたり、興味や関心も広げたりして学びにつなげていけるのではないでしょうか。先生方も、より多面的に子どもたちを見ることができるのではないかと思います」

4kizのミッションは、「子どもたちの可能性を無限に引き出す世界中のつながりをつくる。」だ。すでにサービスの多言語化も視野に入れており、早ければ来年には実現したいという。

本山氏は、4kizというSNSを「ソーシャル・ネットワーキング・スクール」と定義し、新しい学びのプラットフォームでありたいと語る。

「私自身が学びによって多くの機会が開かれましたし、子育てをする中で『子どもを大事にする社会になればもっと世界はよくなる』と改めて強く感じるようになりました。しかし、今の学校教育は、近代工業化の時代につくられた一律一斉に進む授業から変わっておらず、これは1人ひとりの個性や好奇心を潰してしまっているのではと思っています。だから、4kizをAI・情報化社会におけるオンラインの学びのプラットフォームに育て、すべての子どもたちが空間や時間に関係なくつながり合い、学び合える場にしたいと考えています」

(文:國貞文隆、注記のない写真:今井康一撮影)