日本株は「河野新首相」なら本当に上昇するのか 日本株はアメリカ株を今後も追随できるのか

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アメリカ株の上値が重くなるいっぽうで、9月3日に菅義偉首相が事実上の辞任を表明したことで政局が大きく動き、日本株(TOPIX=東証株価指数)は8月中旬の安値から9月13日には10%を越える大幅高となっている。戦後最低水準更新が続いていた「日米相対株価指数」は大きくリバウンドして、今年4月以来の水準まで戻し、アメリカ株対比での日本株の劣後度合いは和らいだ。

自民党総裁選挙は9月29日だが、事実上の次の首相候補による論戦が行われるなかで、経済正常化を期待させる議論が好感される可能性が高い。もともと、8月中旬から東京都の新型コロナ新規感染者がピークアウトしており、先行してワクチン接種を進めたアメリカやヨーロッパに遅れて、経済正常化が始まるシナリオが見えていたことも株高要因になっている。いまだに残っているアメリカ株との年初来リターンの格差を埋めながら、日本株の上昇が続く可能性があると筆者は考えている。

新首相就任で経済運営に変化は起きるか

今後1年などの中期的時間軸での日本株の行方は、次期政権の経済政策運営が大きく影響するだろう。野田聖子氏も立候補したが、総合的に見て次期自民党総裁はほぼ岸田文雄氏、高市早苗氏、河野太郎氏の3候補に絞られた。誰が勝つかに多くの方の関心や思いがあるのだろうが、いずれの候補が勝利してもおかしくない選挙情勢と筆者はみている。政策論争が建設的に行われることを通じて、安倍・菅政権を引き継いで経済成長を重視する自民党中心の政権が続く展開を、やや期待を込めて筆者は予想している。

ただ、4名の候補者の発言を踏まえると、経済政策に対する考え方やニュアンスには無視できない差がある。例えば、河野太郎氏は、金融財政政策を公約に掲げておらず、また最新著書においてもほとんど言及していない。そのうえで、9月10日には日本銀行の物価目標2%について「インフレ率というのは経済成長の結果からくるもの」「こういう状況の中で達成できるかというと、そこはかなり厳しいものがあるのではないか」と述べた。

安倍晋三政権が2013年初にインフレ目標2%を日銀と政府の共同目標にしたことがきっかけとなり、同政権下で日本銀行の政策レジームが大きく変わった。この政策転換が、2013年から2019年までにおよぶ日本の雇用者数拡大の原動力になった事実に対して、河野氏の理解は不十分なのだろう。金融緩和政策については、「マネーを刷る」という表層的な事象しか認識していない可能性がある。

また、安倍氏が保守的な経済官僚に依存してきた経済政策運営に強い不信感を抱いたことが、安倍政権の政策転換につながった。そしてそのことが、憲政史上最長となる長期政権を支えた、大きな政治資源をもたらしたと筆者は総括している。日本の場合、マクロ安定化政策を運営するには、保守的な官僚組織にしっかりと対峙することが政治リーダーに必要な資質であろう。

金融緩和強化後に起きた、雇用回復や経済成長の高まりという成果を否定するのは難しいだろう。だが仮にこの因果関係を理解できない政治家が総裁候補になっているなら、かなり不思議なことだ。

もし「歪んだ経済観」を持つリーダーによって経済政策運営が行われれば、国民経済の向上よりも権益拡大が優先事項になりがちな官僚組織に依存することになる。それでは、経済政策運営上のリスクが大きくなる。こうした筆者の懸念を払しょくしてくれるような、実りのある政策論争を自民党総裁選挙において期待したい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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