「つながり」絶やすまいと、ゼロからのスタート
――立教大学はコロナ禍で比較的早い段階からオンライン授業に着手された印象です。もともと中原先生は、オンライン授業に取り組んでいたのですか?
コロナ以前はすべてがアナログ。いわゆる黒板とチョークを使った授業で、オンラインの「オ」の字もなかったんです。今年の3月にオンライン授業が決まった時は、すべて最初からつくり直して本当に大変でした。
私の授業では、もともと、学生に問いかけて反応を引き出すようなインタラクティブなやり方を心がけていました。だからこそ、すぐにオンライン授業に対応できる教材もなかったのです。
学生の皆さんがいちばん苦労していると思いますが、教員自身も慣れないオンライン授業でヘトヘトになりながら、翌日の準備をするという自転車操業でした。
――今回、オンライン授業を始めるきっかけは何だったのでしょう?
コロナの世界的感染拡大を受けて急激に学生が学びから離れ、学校側から学生が見えなくなったと思う瞬間があったことがきっかけです。
私が学部で持っているゼミでは、今年の3月に企業人事を招いた学生の成果発表会と、新年度から始まる授業に向けた合宿というビッグイベントが2つあるのですが、いずれも学生にとっては非常に重要なもの。これらが中止になった時、学生がひどく落胆し、学びのモチベーションが地に落ちたように見えました。
これは、どんな手段を使ってでも学校と学生のつながりを維持しないと大変なことになると感じました。授業以前に、学生との「つながり」を途絶えさせてはいけないという意識がいちばん強かったです。
「つながり」と言っても、ただオンライン上で集まっていればよいというわけではないので、教育機関である以上、大学として「学び」を軸に試行錯誤を始めました。
試行錯誤のオンライン授業で学生の満足度・効果ともに高水準
――授業にはどのような工夫をされたのですか?
これまでの対面授業では、教員主体の「オンステージ型」で十分成り立っていました。ですが、オンラインでは学生の集中力が長時間持たず、無理だとすぐに悟ったんです。
そしてたどり着いたのは、コーナーを区切ってテンポよく進める「ラジオDJ型」のような新しい手法です。90〜100分の授業を20分、30分と細切れにして、教員が話すパートと、学生が個人ワークをしたりチャットに書き込んだりするパートを、交互に織り交ぜながら授業を組み立てました。
――学生の反応はいかがでしたか?
私は現在、学部授業にはゼミ以外かかわっていませんが、(私の勤務している)経営学部の初年次教育であるビジネスリーダーシッププログラムでは、オンライン授業に対する学生の満足度評価は、担当科目の教員の努力の成果もあり、おおむね高い結果が出ました。立教大学経営学部の田中聡先生、舘野泰一先生らが中心になり、下記のような報告をなさっています。
授業中の学生の行動にも変化があったようです。これまでの大規模授業では、教員が学生に尋ねても、意見や質問はあまり出てこなかったんですよね。それが、オンライン授業で「質問があればチャットに」となった途端に、驚くほどたくさんの学生が積極的に質問や発言をするようになったんです。今までの対面授業では、たくさんの人の前で質問や発言をすることに心理的ハードルがあったのでしょう。
それまで質問できなかったことが質問できるようになり、学生たちの理解度や授業満足度が上がったことで、レポートの質など学習効果も高まる結果となったようです。
また、大規模授業や大学院では、今後もオンライン授業を継続してほしいという声が多数上がっています。大学院は社会人も多いので、通学の時間と手間がなくなったメリットは大きいようです。
――なるほど。では今後、フルオンラインの学校が増えていくでしょうか?
コロナ以前にも調査研究されていますが、オンライン授業は確実に学習効果を高めます。授業ということだけを考えるなら、フルオンラインも可能でしょう。
しかし、「大学生経験」は、授業を受けるだけではありません。大学のキャンパスを歩き、友達と交流することや、部活動やアルバイトなど、授業以外の活動も重要です。リアルな交流や活動は、学生たちも求めていますし、そうした経験という意味でも必要だと感じます。
大学教育の未来は「インタラクションの設計」がカギ
――フルオンラインを経験してみて、これからの大学教育はどのように変化していくと考えますか?
コロナによって、オンライン授業を一斉にスタートさせましたが、徐々に差が出てきていると感じています。これまでの試行錯誤から、授業をよりよいものに発展させられるかが今後の大学の生き残りを決めると言っても過言ではないでしょう。
カギとなるのは、「インタラクションの設計」だと考えています。
完全オンライン授業でわれわれが気づいたのは、「多くの学生は、授業に対してインタラクションとフィードバックを強く求めている」ということでした。オンラインであれ対面であれ、インタラクションをどのように設計するかが重要になるでしょう。「大学生経験」が希薄になってしまった学生たちに、授業の課題を通したインタラクションを提供することで大学や先生と学生同士がつながる場もつくっていくべきだと思うのです。これを上手に設計できれば、学生の学びに対するモチベーションが上がり、授業満足度と学習効果を高めることができます。
(少人数)×(対面)がインタラクティブな環境に最も近づきやすいですが大学経営のさまざまな制約で、すべての授業を少人数制にすることは難しい。
したがって、大規模授業はICTを活用し、これまで実現できなかったインタラクションをつくっていけるかどうかが命運を分けるでしょう。
――しかし、ICTを活用しても、1人の教員が数百人の学生を相手にするのは限界があるのでは?
そうですね。そこで登場するのが「TA(ティーチングアシスタント)」です。大規模授業のインタラクションを実現するには、TAの有効活用がもう1つのカギとなります。
具体的には、大規模授業の中で少人数ワークをたくさん取り入れるといったことです。各ワークグループにTAをつけて、議論やワークをサポートしてもらえば、数百人規模の授業でも質の高いインタラクションを生み出していくことができると考えています。
「ラーニング・バイ・ティーチング」という言葉もあるように、人に教えることは自らの学びにもつながります。TAは現在もありますが、学生の学びをサポートするための役割としては形骸化し、上学年の学生の単なるアルバイトになっている大学もあると思います。そうではなく、TAにもしっかり「教える」役割を担わせることで、その経験をTAである学生自身の成長につなげることができるのではないでしょうか。
――これまでの、大教室で数百人の学生がたった1人の教員の話を聞く授業のイメージから、大きく変わりそうですね。
コロナによって半ば強制的に始まったオンライン授業でしたが、(大人数)×(オンライン)の授業は、大きな変革が起こるでしょう。TAがハブとなってインタラクティブな授業を展開するのも1つの方法になるかもしれません。
いずれにせよ、(大人数)×(オンライン)×(インタラクティブ)の授業を開発できた大学が、今後の授業のスタンダードをつくっていくように思います。