高等教育へのアクセスを確保するために
日本の18歳人口は約118万人。ここ10年程はほぼ横ばいで推移してきたが、2021年ごろから減少局面に入り、2030年には105万人、その10年後の2040年には88万人にまで減少すると予測されている。
一方、2019年度の学校基本調査によると、大学進学率の向上に伴って大学の学部入学者数は増加傾向にある。2019年度の大学(学部)進学率は53.7%と過去最高を記録。短期大学や専門学校などを合わせた高等教育機関進学率も82.8%と、こちらも過去最高となった。大学における女子学生の割合を見ると、学部で45.4%、修士課程で31.6%、博士課程では33.7%と、いずれも過去最高となっている。大学数は前年度4校増の786校(国立86校、公立93校、私立607校)だ。
大学進学率が増加しているが、海外諸国と比較すると違った風景が見えてくる。少し古いデータとなるが、OECDの調査では2017年の日本の大学学士課程への進学率は49%で、OECD平均の58%に水をあけられている。
白書では、低所得世帯の子どもたちは全世帯平均に比べて高等教育機関への進学率が低い状況にあると指摘。実際、家計における教育費負担は重い。例えば、子ども2人が私立大学に通っている勤労世帯では、平均可処分所得の約半分を教育費が占めるまでになっている。経済的な事情にかかわらず高等教育機関へのアクセスを確保するために、2020年4月から高等教育の修学支援新制度が実施されている。対象は住民税非課税世帯および、それに準ずる世帯の学生。大学、短期大学、高等専門学校、専門学校の授業料等減免制度を創設するほか、給付型奨学金支給を拡充する。
高大接続改革の意義
大学入学共通テストについては、英語4技能を評価する大学入試英語成績提供システムの導入延期、国語と数学の記述式問題の導入見送りを経て、今後の大学入試のあり方についての検討会議が議論を重ねているところだ。今後、英語4技能の評価、記述式問題に加え、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の大学入試のあり方についても議論。2020年度末をメドに提言をまとめることとなっている。
見直しを迫られた大学入学共通テストではあるが、白書では、「知識・技能」「思考力、判断力、表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の学力の3要素の重要性は変わらないと指摘。これらを育成し評価するための高校教育、大学教育、大学入学者選抜の三者一体的な高大接続改革の取り組みを進めるとしている。学習指導要領の文脈をなぞることとなるが、知識基盤社会の中で新たな価値を創造していく力を身に付けていくためには、学力の3要素をバランスよく育むことが欠かせないからだ。
そうした力を大学教育でさらに発展させていくために、中央教育審議会から「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」が公表されている(2018年11月26日)。2040年は遠い未来の話ではない。今年生まれた子どもが大学生活を送っている時期に重なるだろう。
内容を見ると、予測不可能な時代を生きる人材像として、普遍的な知識・理解と汎用的技能を文理横断的に身に付けるとともに、積極的に社会を支え、論理的思考力をもって社会を改善していく姿を掲げている。高等教育としても、学修者1人ひとりの学習成果の可視化、学修者が生涯学び続けるための多様で柔軟な仕組みをつくる、学修者本位の教育への転換を促している。
高等教育機関が多様性と柔軟性を確保するためには、社会人や留学生といった多様な学生を受け入れる体質改善に加え、教員の多様性も欠かせない。文系と理系の枠にとらわれず時代の変化に即応したプログラム編成にも挑まなくてはならないだろう。これまでにはなかったダイナミックな動きや多様性を受け止める柔軟なガバナンスに変わる必要もある。
求められる人材像の変容に伴って、教育の果たす役割も変わっていくだろう。1ついえることは、知識基盤社会の中で、教育と研究の拠点である高等教育機関の存在意義が高まっていくということではないだろうか。(写真:iStock)