記事の目次
「みんなで考える」「見て覚える」が簡単に
埋もれがちな個性や声も、デジタルが浮き上がらせる
休校期間「オンラインで友達に会える!」と児童の顔が輝いた

「みんなで考える」「見て覚える」が簡単に

全校児童145人が1人1台のタブレットを使いこなす小学校があるーー。福島県の海沿い、浜通りに位置する新地町立駒ケ嶺小学校だ。「児童はタブレットに自分専用のIDとパスワードを入力して、学習プラットフォームにログインします。そこからデジタル教材やドリル学習ソフト、協働学習ソフトなど、たくさんのコンテンツにアクセスできる仕組みです」

そう教えてくれたのは、同校で6年生の担任をしている橘寿史先生だ。

福島県新地町立駒ケ嶺小学校
6年担任 本校勤務5年
研修主任、情報・ICT教育担当
橘 寿史先生
(提供:駒ケ嶺小学校)

「ICT教育のメリットは、何といっても操作性です。昔なら、授業に必要な図やイラストは模造紙に描いていましたが、デジタルなら素早くきれいに作成できるので、授業の準備がとても効率的になりました。また写真や動画をアップし、そこにコメントを付けられるのも画期的。児童は授業を受けた後、自分のノートの写真を撮って、学習プラットフォームにアップします。教員は、学期末に成績評価をするときにこれを見返して『この子はここが光っていたな』と振り返ることもできるんです」

ICT教育は、学習内容の共有化にも強みがあるのだと橘先生は語る。「児童がタブレットに書いた答えを電子黒板に転送し、クラスのみんなで一緒に考えたり、話し合うこともできます。ICTによって、いわゆるアクティブラーニングが格段にやりやすくなりました」。

(提供:駒ケ嶺小学校)

現場で注意しているのは、「デジタルだけに偏らないこと」(橘先生)だという。デジタル教材と紙の教材、そして紙のノートを併用し、目的に応じて使い分けている。

「紙とデジタルにはそれぞれ強みがありますから。紙が向いているのは、自分の手を使って書く(描く)こと。例えば、正六角形を描く課題があるとします。デジタル教材ならいとも簡単に作図できますが、実際に分度器や定規を使って作図するのも大事。そこで、作図の仕方は動画を見て学び、実際の作図作業は、紙と鉛筆を使って自分の手で書いてみるという指導方法を採っています」

同校では、タブレットを持ち帰っての家庭学習にも力を入れている。「児童が学習記録を基に自分に合った自主学習を進められるドリルコンテンツや、授業の内容を復習できるソフトも入っています。さらに予習もしやすくなりますから、反転学習(※1)にも活用しています」
※1 児童が事前に家庭で学習し、授業ではより詳しく学んだり、議論をして学びを深める学習方法。従来とは学びの順番が反転していることからこう呼ばれる

埋もれがちな個性や声も、デジタルが浮き上がらせる

(提供:駒ケ嶺小学校)

2010年から始まった、同校のICT教育。その成果が垣間見えるエピソードがある。

「6年生ともなると、教師の想定を超えた使い方を提案してくれます。先日、『画面にワークシートを貼り付けて歴史新聞を作ってみよう』という課題を出したところ、ある児童から『別のソフトを使って、プレゼン風にまとめたい』という声が上がりました。希望どおりにやらせてみたところ、源平合戦をコント仕立ての物語にまとめ上げ、見事にプレゼンしてみせました。6年間継続してICT教育を受けてきた、新地町の児童ならではの成果だったと思います」と、橘先生は胸を張る。

また、ICT活用は意外な側面から児童のポテンシャルを引き出してくれるという。

「クラスルームではどうしても、積極的に発言する子と黙って聞く子という“役割分担”が固定化しがち。しかしデジタルの世界では、普段おとなしい児童が目覚ましい活躍を見せることがあります。ICT授業では、『(タブレットに書き込んだ意見を)読んでみて』と促すことで、そういった児童が発言するきっかけをつくれるようになりました。児童の学習意欲はもちろん、自己肯定感の向上にもつながっていると感じます」

(提供:駒ケ嶺小学校)

一方、保護者と教員のコミュニケーションにも、ICTが役立っているという。

「本校では保護者にもIDとパスワードが配布され、学習プラットフォームにアクセスできます。ここにはタイムラインのメッセージ機能があるため、クラスのちょっとした情報や明るい話題などを、保護者にすぐ伝えることができます。以前は、保護者と教員のコミュニケーションといえば電話や連絡帳を使っていました。しかしこれではセキュリティーが担保されませんし、児童本人が目にしてしまうおそれもありました。メッセージ機能によってセンシティブな相談がしやすく、スピーディーな情報共有も可能になりました。以前本校が行ったアンケートでは、保護者の91.8%が『ICT活用によって子どもが理解しやすくなった(学習意欲が向上した)』と回答しています」

同校の充実したICT環境を可能にしているのが、ICT支援員の存在だという。児童や保護者へのID・パスワードの配布から、授業でICTを使う際のバックアップまでICT支援員が担う。そのぶん、教員は授業運営に注力できるというわけだ。

休校期間「オンラインで友達に会える!」と児童の顔が輝いた

10年かけて積み重ねられてきた、駒ケ嶺小学校のICT教育。その威力は、新型コロナウイルスの感染拡大による休校期間中にも存分に発揮された。

「休校期間中も、学習支援ソフトを通じて課題の提出や添削を行っていました。メッセージをやり取りできるので児童一人ひとりの状況を把握しやすく、不安がっている子を励ますなど、心のケアにもつながりました。中には、家でできる体操の動画をアップしている教員もいましたよ。テレビ会議システムを使った授業では、オンライン上でクラスメートが集まることができ、児童の顔が途端に輝きだしたのが印象的でした。家庭学習でわからなかった部分も、顔を見て話すとすんなり理解できた子もいましたね。改めて、ICT教育の環境が整っているありがたみを実感しました」

(提供:駒ケ嶺小学校)

教育現場を支え、児童のポテンシャルを引き出すICT教育。新地町はその先進的な取り組みにより、2020年5月、「日本ICT教育アワード賞」を受賞した。

「町全体で取り組んできた10年間の積み重ねが、受賞につながったと思います。諸先輩方や地域の方、そして児童たちに感謝の気持ちでいっぱいです。ICT教育は、新地町の教育のシンボルでもあります。コロナ禍のような不測の事態においても、ICTが大きな手助けになる。そのありがたみとともに、誇りと責任を感じながら、これからさらにしっかりと活用していきたいですね」

(注記のない写真はi-stock)