ムハンマド皇太子は一体何を狙っているのか 異変の最初の兆候は1通の書簡だった
「彼は会合に出かけ、戻ってこなかった」。拘束された一部の人々と繋がりのある第2の関係者はそう語る。
拘束されている人々のなかには、国際投資会社「キングダム・ホールディング」の会長であり、ムハンマド王子の従兄である富豪のワリード・ビン・タラール王子や、元リヤド知事で故アブドラ前国王の息子トルキー・ビン・アブドラ王子も含まれている。
一部の王室ウォッチャーによれば、夏に開かれていた王族会合で、対立は明らかになっていたという。ムトイブ王子を含む有力王族の一部が、ムハンマド王子の皇太子昇格を快く思っていないことは、同皇太子もよく分かっていた、と内部関係者は語った。
汚職対策委員会
サウジ国内で「MbS」というイニシャルで呼ばれることの多いムハンマド王子はかつて、国内にはびこる汚職の捜査を進め、トップ官僚の摘発も躊躇しない、とインタビューなどで公言していた。
その手段となったのが、サルマン国王が創設し、4日発表された汚職対策委員会だ。国王はムハンマド皇太子を同委員会のトップに据え、過去3年間に同皇太子に与えた数々の権力をさらに強化した。
サウジ当局は、これまでの汚職捜査で208人の容疑者を取り調べ、汚職によって不正取得された金額は少なくとも1000億ドル(約11兆3000億円)と推定される、とサウジのシェイフ・サウド司法長官は9日述べた。汚職対策の委員長は、捜査官は過去3年間証拠を集めてきたと語る。
汚職との戦いによって、ムハンマド皇太子は国民に人気の高い政策遂行と、自身の王位継承に対する障害排除を組み合わせた格好だ。
「MbS(ムハンマド皇太子)は、誰でも標的にできる汚職撲滅というムチを振るった」。1979年から2001年まで情報機関トップを務めたトルキー・アル・ファイサル王子の元顧問ジャマル・カショーギ氏はそう語る。「われわれは、王子たちが汚職の容疑で取り調べを受ける姿を初めて目撃している」