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分析力を鍛えるための3つの方策

  • 制作:東洋経済企画広告制作チーム
ものごとを“分かる”ということ。
それは、対象物の構成要素を正しく“分ける”ことに始まり、総体的に把握することである。
「分析」について考えるならば、まず、その“分かる”というプロセスについて知ることが必要だ。

“分かる”ということのメカニズム

「分析」についてより深く理解しようとするならば、まずわれわれがものごとを“分かる”ということについて正しく知る必要がある。ものごとを分かるということ、すなわちそれが何であるのかを理解するということは、「それと、それ以外のものとの違いを認識する」ことである。

具体的な例で説明してみよう。目の前にあるモノが、たとえば「コップ」であるということが分かるということは、目の前にあるモノについてコップ以外のすべてのモノとの違いを確認するプロセスを通じて到達した結論である。いろいろな観点から自分が知識として持っているさまざまなモノの属性と照らし合わせて、これは他のモノとは違う、と認識するのである。そしてそのことは同時に、自分が知っているコップというモノの属性と、形も、大きさも、色も、匂いも、重さも、手触り感も、すべて同じであるということでもある。その総合的判断として「これはコップだ」と分かるということになる。これが“分かる”ということである。

“正しく”分かるということ

このプロセスにおいて必要十分かつ適切な構成要素の選択ができていないと、それが何であるか(それはコップである)ということを正しく判断することはできない。たとえば、目の前の対象物の形を真横から見ただけでは長方形か台形のシルエットとしてしか認識できない。あるいは、真上から見たのであれば、単なる円盤としてしか認識できない。また形ではなく、材質だけしか観察せずに判断してしまうと、目の前にあるモノはガラスであるという分かり方をしてしまう。間違いではないが、「それは(ガラスの)コップである」という分かり方のほうが正しさの度合いは高い。

ここで取り上げた、分かろうとする対象物がコップであるようなシンプルな場合であれば、正しく分かるための属性要素の選択と判断はそれほど複雑でも難しくもないが、分かろうとする対象物が何であるかは一見するだけでは判断が難しいことも少なくない。その場合は、匂いや味をチェックする必要があるだろう。科学的な成分分析が必要になる場合もある。

このように、それが何であるかを正しく分かるためには、形も大きさも色も、匂いも重さも手触りも、成分も比重も比熱も、ほかのモノとの反応特性も……というように、その対象物の構成要素/属性要素を総体的に把握することが必要なのである。

そして、これがまさに分析である。分析とは、分かろうとする対象の構成要素/属性要素をタテ・ヨコ・ナナメに切り分けてヌケ・モレなく総体的に把握することなのである。

正しい分析の条件:MECE

分析という行為をこのように理解することができれば、正しく分析できるかどうかは分析対象をどのような構成要素/属性要素に分けられるかにかかっていることに気づくであろう。正しく分析するためには、構成要素/属性要素を総体的・網羅的に正しく分けて認識することがカギになるのである。そして、分析の対象がヌケ・モレ・ダブリなく正しく分けられている状態をMECEと呼ぶ。

MECE(Mutually Exclusive、CollectivelyExhaustive)とは、「相互排反(互いに重なりがないこと)、集合網羅(全体を網羅していること)」である(図表1)。簡単に言うと「モレなくかつダブリがない状態」である。たとえば、「男性と女性」「独身者と既婚者」「20 歳未満・20歳以上65 歳未満・65 歳以上」……という分け方はすべてMECEである。

答えにたどり着くためのカギ

「それが何であるのか」という分析の答えを正しく分かるためのカギとなるのは、どの切り口から構成要素/属性要素を選び取るかという「クライテリア(分類の基準)」である(図表2)。

実際の分析作業を行うケースでは、その分析によって得ようとしている答えが的確に得られるかどうかは、この分析の切り口(クライテリア)として何を選ぶかにかかっている。ビジネス分野における実際の分析においては「利益率を向上させるためにはどうすればよいか」とか「業務処理のスピードを短縮するためのプロセス変更はどうすればよいのか」などの具体的な目的を持って答えを探す場合がほとんどである。このようなケースでは、「利益率を向上させるファクター」や「効率的な業務プロセスの作業と手順」が分析によって求めようとする答えである。このように具体的な答えを求めようとする場合に分析者が有効な答えにたどり着けるかどうかは、適切なクライテリアの設定ができるかどうかにかかっている。

もう1 つ、正しい答えにたどり着くために必要なクライテリアに関する留意点がある。水平的クライテリア群のなかでの選択ではなく、垂直的クライテリア群のなかでの選択が重要な場合もある。垂直の(タテの)クライテリアの設定においても、分析目的にミートした答えを得るためには、適切な細密度/解像度のレベルを選ぶことが重要である。

分析力を鍛える3 つの方策

どうすればこうした良き分析を行うことができる能力を高めることができるのか、その方策について紹介しよう。

分析力を鍛えるための方策として私が挙げたいのは以下に示す3つである。

(1)多様なクライテリア設定の反復

さまざまな対象に対して数多くのクライテリアを設定する練習を日常生活のなかでも行うことである。

柔軟な発想に基づいて、ほかの人では思いつかないような斬新なクライテリアで対象を分類することができれば、求める答えの真芯を射抜いた解答が浮かび上がってくることも少なくない。そのためには、日頃からより多くのクライテリアを設定する訓練を行うことは有効である。こうした練習は日常生活のあらゆる場面で可能である。

(2)MECEをやりきる

2 番目は、分類を行う場合はMECEを完結するところまでやりきるクセをつけることである。そうすると、明らかに差異の大きさが違う要素を単純に横並びに挙げていくのは何となく気持ちが悪く感じるはずである。この気持ち悪く感じる感覚が、“正しく分ける”センスであり、精緻な論理的思考力の基礎となるセンシティビティとなる。

MECE 的分類を完結しようとすると、どれとどれはくくるべき/分けるべきなのか、どれとどれは並列的な差異を有するのか、垂直的な差異があるのかという、タテ・ヨコ両面でのクライテリア問題に直面する。この問題の前で、どのクライテリアを選択すべきかという判断、および選んだクライテリアによって対象を完全に分け尽くしていく、という知的苦闘が論理的センスを磨き、分析能力の筋トレになるのである。

 

(3)体系化へのトライ

そして、この2 番目の訓練の延長線につながるのが、第3 の方策である“体系化”である。体系化というのは論理的分析の緻密な完成形である。2 番目で紹介したMECEの完遂は、どうしても平板な分類結果になりがちである。さまざまなクライテリアを試してMECEを完成させる訓練は水平的な分析力の強化には有効であるが、思考の抽象度を上げたり下げたりする抽象的思考力を強化するためには十分ではない。体系図を作るということは、MECEな分類を何枚も重ねて積み上げていくようなものである。

正しい体系図においては、すべての枝分かれごとに適切なクライテリアの設定が求められ、すべての枝分かれごとにMECE が完結している。枝分かれごとのクライテリア設定とMECEな展開という体系図のルールが、その分析の論理的整合性と完結性を担保するのである。

こうした体系図を自分で構築してみることは、これ以上ない分析力と論理的思考力強化の鍛錬になる。ここで分析力と並べて論理的思考力という言葉を持ち出したのには訳がある。

分析力とは冒頭から述べてきたように“分ける力”である。十全な論理的思考力を身に付けるためには“分ける力”と並んで“まとめる力”が必要である。両方が揃ってこそ初めて十全に対象を把握することができるのである。MECE に分ける練習だけでは、まとめる力=総合的把握力や体系的整合性を感じ取るセンシティビティは養成されない。適切なクライテリアの設定、MECEな分類、抽象的位相の上下への展開、および体系的整合(すべての枝分かれとくくり方が調和的に閉じていること)のすべての要素が含まれている体系化は、分析力と論理的思考力を強化するために最も有効な訓練になる。

どのクライテリアを選択すべきかという判断、
および選んだクライテリアによって
対象を完全に分け尽くしていく、
という知的苦闘が論理的センスを磨き
分析能力の筋トレになる。

波頭 亮(はとう・りょう)
1957 年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。82 年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。88 年コンサルティング会社XEEDを設立。幅広い分野における戦略系コンサルティングの第一人者として活躍を続ける。また、明快で斬新なヴィジョンを提起するソシオエコノミストとしても注目されている。著書に『成熟日本への進路』『プロフェッショナル原論』(いずれもちくま新書)、『リーダーシップ構造論』『戦略策定概論』『組織設計概論』(いずれも産能大学出版部)、『日本人の精神と資本主義の倫理』(茂木健一郎氏との共著、幻冬舎新書)、『プロフェッショナルコンサルティング』(冨山和彦氏との共著、東洋経済新報社)などがある。