在宅支援の現場では、地域の事業所がどこも対応に苦慮する「困難ケース」を行政に引き取ってもらいたいという要望が多い。刃物で刺される事件が2年続けて起きたことで、その声は以前にも増して強まっている。川口市介護保険課の担当者に、困難ケースを引き取ることはできるのかと聞くと、介護保険制度上、想定されていないとのことだった。
厚生労働省によるハラスメント対策のマニュアルでは、事業所側からの契約解除には正当な理由が必要だとされているが、事前のリスク把握が難しいケースは少なくない。せめて相次ぐ事件の背景を少しでも把握し、安心して仕事ができるように対策を講じたい。それが現場で働くケアマネたちの切実な願いだ。
市の担当者に、行政が今回の事件を検証し、福祉関係者で共有することはできないのかと問うと、「できない」と答えた。
「介護保険業務を通じて、事業者からの聞き取りなど一定の情報は把握しているが、当事者が2人とも亡くなっている状況では、断片的につなぎ合わせたものにとどまり、経緯の把握には限界がある。それに、介護保険の業務上知りえた話を第三者に公表することは、行政の立場としてはできない」
介護保険法の下、制度の実施主体である市町村には、介護保険サービスに関する施策を“包括的に推進する責務”がある。だが、相次ぐ殺傷事件は、介護保険制度にほころびが生じている表れともいえる。在宅生活を支える基盤が揺らげば、国が掲げる地域包括ケアシステムの構想は崩れる。
川口市の事件は、住民の心にも暗い影を落とし続けている。今求められているのは、「被害者や遺族のプライバシーに十分な配慮をしたうえで」、再発防止に向けた検証と共有の道を模索することではないか。
それが現状で難しいとしても、このままでよいとは思えない。どうすればいいのか。取材を通して、問いが残り続けた。
(第2回に続く)


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