「先代会長が残した『椿屋珈琲は街の文化』という言葉のもと、その立地ならではの雰囲気を取り入れた空間を楽しんでいただけたらと思います」(三橋さん)
価格ではなく「価値」で選ばれ続ける店へ
ここまで話を聞いて、客に心地よく過ごしてもらうための工夫が随所に表れていることがうかがえた。それでも、コーヒー1杯1300円は決して安くない。同社はこの価格をどう捉えているのか、率直に聞いてみた。
「確かにコーヒー単体で見れば、高価格です。しかし、フードとのセットなら2000円程度。他店との価格差は、それほど大きくないと思っています。ここ数年は外食業界全体で値上げが進んでいるので、むしろコーヒーと食事で2000円の店は珍しくなくなってきた印象です」(秋山さん)
実際に、比較的手ごろなメニューもある。前編でもレビューしたが、創業以来の看板メニュー「椿屋特製ビーフカレー」は、厳選した牛肉と11種類のスパイスをじっくり煮込んだこだわりの一品でありながら、コーヒーとセットで税込2080円(銀座本館の場合)だ。
一方、同社では経営戦略として「高付加価値商品の開発」を掲げている。商品の付加価値を高めることで客単価の向上につなげ、原価率の上昇をカバーする狙いだ。
その一例が、季節の食材をあしらった商品だ。2026年8月から提供している「シャインマスカットのショートケーキ」は、単品税込1200円~。
1ピースにしては高価だが、旬の味覚を味わえる体験そのものを付加価値として価格に反映している。こうした商品づくりも、客を引きつける理由のひとつだろう。
支持を集めているとはいえ、むやみに出店エリアを広げる考えはない。「東京圏ベストロケーション」を掲げ、今後も本社のある新橋から50km圏内を目安に、1都3県で展開する予定だ。
エリアを絞る理由は3つある。1つ目は集客。東京圏は人口が多く、人の往来も活発なため商機が見込める。2つ目は採用。駅近の商業施設であれば従業員が通勤しやすく、人材確保につながりやすい。
そして3つ目は、コーヒーやフードの鮮度を保つためだ。同社は、商品の製造拠点を首都圏に集約している。江東区猿江には、前述した焙煎所のほかケーキなどの菓子を製造する工場があり、横浜市戸塚区にも生パスタやソースなどを生産する工場を構える。各拠点から無理なく商品を届けられる距離であることも、出店エリアを決めるうえで欠かせない条件だという。
価格ではなく価値で選ばれる店であり続けるため、接客・空間・商品すべてに妥協しない。椿屋珈琲が「高くても選ばれる理由」は、一つひとつのこだわりの積み重ねにあるのだろう。


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