「あなた、現場のことをほとんどわかってませんね。こんなの、絵に描いた餅ですよ」
ある営業が、クライアントにこう一蹴された。AIを駆使して仕上げた、渾身の提案書だったのに、である。なぜ、こんなことになってしまったのか。
そこで今回は、このエピソードを引用しながら、AI時代における「リアルコミュニケーション」について解説したい。AIにどこまで頼っていいか迷っているビジネスパーソンは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
顧客に一蹴された提案書
この営業は、あるプラスチック樹脂加工メーカーへの提案を任されていた。どんな課題があるか、どう解決すべきか。AIにいろいろな情報を渡し、精緻な提案書を仕上げた。営業自身、「さすがAIだ」「これは刺さる」。――そう、確信していたという。
ところが結果は、冒頭で紹介した通りで、散々の結果に終わった。「絵に描いた餅」と、切り捨てられてしまったのだ。
一方、同じ案件を競っていたライバル会社は、そこまで精緻な提案をしていなかったようだ。にもかかわらず、その提案が通った。何度も現場に足を運び、関係者と話し合いを重ねていた。エンジニアやアシスタントの声を、根気強く拾おうとしていたという。提案内容そのものに驚きはなくても、一連の動きを見て、この顧客は「この会社に任せたい」と決めたのだ。
「ダニング・クルーガー効果」という心理学の言葉がある。1999年、心理学者のデヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが提唱した認知バイアスだ。能力の低い人ほど、実力以上に自分を過大評価してしまうという現象である。理由は、自分を客観視する「メタ認知」が働かないからだそうだ。反対に、能力の高い人ほど自己評価は控えめになるらしい。
これはAI活用にも、そのまま当てはまると私は思う。
AIをほとんど触ったことがない人は、案外自信がない。ところが、うわべだけAIを使い始めた人ほど、あっという間に自信満々になる。知人の経営者が、あるときこんなことを言っていた。
「AIによって当社の生産性は、2倍以上にアップするんじゃないか」
このように、「AIを使えばあんなこともできる、こんなこともできるはずだ」と、勢いよく語り始めるのだ。


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