取材の日、抹茶のかき氷を一口食べて、その上品な味わいに驚いた。巨大に見えたかき氷をぺろりと平らげてしまった。
葵製茶の担当者と研鑽を重ね、先程のフルーツの考えと同様に、渋みと苦味をバランスよく配合して、抹茶本来の旨みを引き出している。
それに加えて、店では、練乳を別の器に入れて提供する。フルーツのかき氷と並ぶ、埜庵の代表的なかき氷だ。
行列ができても、儲からない現実
こうして客の数も増え、「行列のできる名店」として、テレビや雑誌の取材も相次ぐようになった。夏がくると、ものすごい勢いで人が並び、長蛇の列ができる。それに対処するために人を雇うサイクルが続いた。
やがて整理券制を導入すると、ピーク時の2011年には7時間待ちを記録した。11時オープンの店なのに、10時から整理券を配り始め、11時には200組500名あまりの整理券を配り終える。最後の人が食べ終わるのは、18時すぎという状況だったという。しかも営業時間中は「本日終了です」とずっと頭を下げっぱなし。しかし、行列ができることは、必ずしも店にとって喜ばしいことばかりではなかったという。
「かき氷屋に関しては、実は行列ってすぐにできるものなんです」
種明かしのように、石附さんは語り始めた。
暑い季節がやってくれば、人は涼を求めてかき氷を食べにくる。自分が呼び込んだ客でもなく、実力とは何も関係なしに。
かき氷機が1台ならば、例えば4人家族であれば、4人分削るにはどうしても時間がかかる。その間にまた4人家族が並んで、その後ろに4人家族が並んだら、簡単に行列ができてしまうというのだ。
「普通の飲食店に行列ができるのは、大変な努力の末のことだと思いますが、かき氷屋に関しては、行列は人気のバロメーターでもない。大半はお店のオペレーションで変わってくる。行列ができて得意になっていた時期もありましたが、今思えば、自分自身がちゃんと回す力がなかったから行列していたという方が、正しいと思います」

