「鎌倉と鵠沼は、全然土地の性格が違います」と、石附さんはいう。
人の数は圧倒的に多いが、一見さんがほとんどだった鎌倉に対して、鵠沼はずっとローカルな雰囲気で、客も近隣の住民がほとんどだ。大手のチェーン店がなく、個人商店が並ぶ商店街には、独特の湘南の文化が根付いている。
鵠沼に移転してからは、客層が「通りがかりの一見さん」から、「埜庵のかき氷を食べる」という目的で来る人たちへと変化していった。
とはいえ当時は、冬になるとどれだけ待っても客の来ない日が続き、季節商売のきびしさにも直面したという。「テレビを見てきました」「一回来て見てみたかったんです」という人が夏には大勢押し寄せる一方で、冬になるとまったく来なくなる。真冬の雨の日に、客数ゼロを記録した日もあった。
そこで、石附さんが目指したのは、「冬にかき氷を食べてくれる人をつくること」だった。氷の削り方やシロップを季節に合わせて調整するだけでなく、ただひたすら客と一対一の関係を築くことを心がけたのだ。
「一人ひとり、時間があるのであれば、天然氷の話をしたり、僕たちの想いもお伝えしたい」
客が来ないということは、正確には、「一度来た客が帰ってこない」ことだと石附さんは考える。客は来ているけれど、通り過ぎている。それなのに、来るか来ないかわからない人を相手に一生懸命宣伝するよりも、今目の前にいる、自分の意思で一度来てくれている人に対して、誠意を持って対応をすることが一番だと考えたのだ。
「そうすれば、きっとその人は帰ってくる」
また、かき氷の需要が減る真冬に来てくれる方には、温かいコーヒーをサービスするなど、もてなしの質を向上させた。
その結果、寒い季節に足を運んでくれる人ほど、次第に埜庵のコアなファンになっていったという。
おいしさの探究。手作りシロップと素材へのこだわり

