そして、訪れた客の印象に残る体験を生み出しているのが店内のライブ感だ。
店の入り口では削り出された鰹節が舞い、すぐ奥のオープンキッチンからは天ぷらを揚げる音が響く。製麺室は外から見える造りになっており、うどんが出来上がるまでを目と耳で楽しめる。
客を呼び込める立地を選び、看板で伝え、店内演出で期待を高める。こうした一連の工夫が、オープンから1カ月以上たった今も絶えない行列を支えているのだ。
広告費ほぼゼロでアルバイト350名を獲得
店の外観や看板が果たしている役割は、客の呼び込みだけではない。なんとスタッフを集める求人広告としても機能している。
源次郎のアルバイトを募集するために行ったのは、店先にA4サイズの募集案内を一枚貼ったことと、最小限の採用広告費だけ。にもかかわらず、約350名から応募があったという。
これは、源次郎に限った話ではない。2023年に同社がオープンした新業態「果実屋珈琲」でも、同様の方法で約500名もの応募が集まったそうだ。
広告費をほとんどかけなくても多くの応募が集まる背景には、新業態ならではの出店プロセスが関係している。
新業態の店舗では、オープン前の1カ月を店内オペレーションの検証にあてるため、看板を含む外観を早い段階で完成させるという。その間に、店先の募集情報が近隣住民の目に触れ、相次ぐ応募につながったと見られる。
だが、このように採用がスムーズに進んだとしても、安心して働ける環境が整っていなければスタッフの定着は難しい。そこで同社では、職場環境やオペレーションの整備にも力を入れている。その一例が、スタッフの安全に配慮した圧力釜の開発だ。
源次郎の業態開発当初、課題となっていたのが圧力釜の安全性だった。同社が検討した既製品は、内部に圧力が残った状態でも、少し力を加えれば蓋が開いてしまったという。誤ったタイミングで蓋を開けると、スタッフが蒸気や熱湯をかぶってやけどするリスクが考えられた。
「万が一でもスタッフを危険にさらす可能性があるのなら、圧力釜は絶対に使えません。安全が第一ですから」
そこで廣瀬さんは、内部の圧力が完全に下がるまで蓋が開かない圧力釜を独自に開発することを決めた。メーカーと秘密保持契約を結び、一から設計に従事。完成には数年かかった。
源次郎ならではのもっちりとした食感を生み出す圧力釜は、スタッフの安全を最優先する姿勢から生まれたものだったのだ。

