もっとも、ロケ弁市場は簡単な世界ではない。テレビや映画の現場で長年愛されてきた老舗が数多く存在する。カレーならオーベルジーヌ、中華なら喜山飯店。そうした強豪が並ぶ中で、2015年に参入した塚田農場おべんとラボは後発組だった。
それにもかかわらず、なぜこのチキン南蛮弁当はここまで人気になったのか。居酒屋「塚田農場」で知られるAPHDのグループで、弁当ブランド「塚田農場おべんとラボ」を運営する株式会社塚田農場プラス、代表取締役社長の森尾太一さんに話を聞いた。
「弁当は味じゃない」に抱いた違和感
塚田農場おべんとラボの始まりは、一つの違和感だった。きっかけは、APHD創業者の米山久さん(現・APHD代表取締役会長兼社長)がテレビで見たある番組だ。とある宅配弁当サイトの経営者が、こんなことを話していた。
「弁当は味じゃなくて、見た目が大事」
その言葉が、米山さんの頭に残った。サイト上では、写真やパッケージの印象で選ばれることが多く、実際に食べる前の「見た目の良さ」が、そのまま注文数に直結する世界だという話だった。
もちろん見た目は大事だ。
ただ、食べ物なのに味より見た目が優先される。そこにどこか引っかかるものがあった。さらに気になったのは、お金の流れだった。弁当が売れるまでには、さまざまな会社や人が間に入る。そのたびに手数料が発生する。
すると、本来価値を生み出している生産者や料理人の取り分は少なくなる。一方で、消費者が支払う価格は高くなる。米山さんには、その構造が健全には思えなかった。
食の主役は、本来作る人のはずだ。生産者がいて、料理人がいて、初めておいしいものが生まれる。それなのに、食そのものではなく、注文を集める仕組みのほうが大きな利益を生む。その状況に違和感を抱いた。
「それなら、自分たちでやろう」
米山さんはそう考えた。産地から直接仕入れ、自分たちで作り、自分たちで売る。できるだけ中間コストを減らし、その分を食材や品質に回す。

