ゴールドマン・サックスは2023年に、生成AIが10年間で世界の年間GDPを7%増加させる可能性があると推定した。だが、これらの認知的努力を自動化させてしまうと、その人は本来身につくはずだったスキルを習得する機会を失い、そのスキルをサポートする脳の働きを弱めてしまう可能性もあると指摘する複数の研究もある。
これは、身体的なトレーニングを怠ると筋肉が弱まってしまうのと同じことと考えるとわかりやすいだろう。
生成AIと子どもたち
現在、生成AI技術が子どもたちに与える影響についての研究がいくつも行われている。だがその研究結果の多くは、あまり良いものとは言えない。
アメリカのシンクタンクであるブルッキングス研究所のユニバーサル教育センター(CUE)が今年1月に発表した調査研究では、50カ国の学生や生徒、保護者、教師、教育関係者、技術専門家505人に対してインタビューやコンサルテーション、パネルディスカッションを行い、その他数百件のAI研究やレビューの精査に1年を費やした調査から、「現段階において、子どもの教育に生成AIを活用することのリスクは、そのメリットを上回っている」との結論に至ったと述べた。
研究チームは、生成AIを使えばすぐに問題の解答が得られることを知った子どもが、「簡単だから、頭を使う必要がないんだ」とコメントしたことを具体的な例として挙げた。素直であるがゆえに、このような思考が身についた子どもたちは、生成AIモデルの出力をただそのまま受け入れるだけで、自ら学ぶ意欲を持たなくなってしまう傾向があるという。さらに、何でもすぐ生成AIに尋ねれば済むと思い込んでしまうと、学校の授業で学んだことも覚えようという意識を持たず、すぐに忘れてしまう可能性もある。
よく似た傾向は、生成AIが登場する以前からあった。それはスマートフォンの普及だ。
1930年代以降、世界中における人々は世代を超えて知能指数(IQ)を高めてきた。それは遺伝的な変化ではなく、人々の学習環境などの要因によるものと考えられる(フリン効果)。ところが、この平均IQの向上は2000年代以降、一部の国でマイナスに転じている。たとえばアメリカでは、若者の注意力の持続時間が短くなり、批判的思考力も弱まっていることが指摘されている。
ある研究では、携帯電話やスマートフォンによっていつでもどこでも情報を仕入れられるようになり、さらにソーシャルメディアが人々の注意力や思考能力を減退させ、GPSが人々の方向感覚も鈍らせていると述べている。
そこに生成AIが加わったことで、たとえば学生なら課題レポートの作成、社会人なら納税申告書の計算処理といった面倒な作業から逃れられるようになった。だがそれは、「物事をどのように考えるか」といった、認知的な負荷の高いタスクから逃れられるようになった人々が、得られるべき思考能力を身につけられないまま過ごしていくことになる。

