しかし、問題は、ETCSには日本の新幹線が対応していないという点だ。クラッシュアボイダンスの原則からいって、ETCSで走る列車を新幹線と呼べるかどうか。
「それなら、外観だけをE10系にして、中身のシステムは欧州製にすればいいではないか」。インド側にはそう口にする人もいるという。しかし、JR東日本の伊藤副社長はきっぱりと言い切った。「そんなわけにはいかない。信号システムと車両は一体不可分。日本製の信号、日本製の車両で運行するということを約束している」。
安全性は保てるのか
2025年8月に行われた日印首脳会談の共同声明には、「日本式信号によって走行するE10系新幹線を2030年代初頭に導入する」「日本式信号をはじめとする信号の早期敷設」といった文言が盛り込まれ、日本式信号が大前提であることが明文化された。
だが、それは甘い考えだった。NHSRCLは2025年11月に信号・通信システムなどのプロジェクト管理業務を入札を発表した。シーメンス連合の作業が適切に実施されているか管理するという内容だ。2026年2月、シストラはドイツ鉄道系のエンジニアリング会社と共同でこの業務を受注したと発表した。シーメンスなどの企業連合と密接に連携して業務を進めるという。当初予備調査を担当したシストラが表舞台に返り咲いた。
欧州式信号を撤回できないと判断した日本の国土交通省は2025年12月に、インド高速鉄道において「日本式信号と欧州式信号の並行整備」に関する調査の入札を公示した。2つの信号システムの共存が可能かを調査するのだ。もっとも、それが実現すれば、インドにとって信号システムの二重投資によるコスト増は避けられない。それ以上に、日本ではありえない試みだけに、安全性が心配だ。調査結果の行方が注視されている。
広大なインドの大地を日本の新幹線が走る姿を見れば、多くの日本人が誇らしい気持ちになるだろう。しかし、新幹線たるゆえんは、安全性あってこそなのである。
