売買される「盗撮画像」、急増する「ディープフェイク被害」

――永守さんたちが行っているネットパトロールについて教えてください。

SNSや掲示板など、ネット空間に拡散されているデジタル性暴力画像の通報を行っています。2020年の夏、Twitter(現X)のタイムラインに「女子高生の盗撮画像を販売しているアカウントを一緒に通報してください」という呼びかけが流れてきたのがきっかけでした。

その中には学校で盗撮された画像もあり、安心して学べるはずの学校で盗撮が起きていることに、子育て中の親として大変な衝撃を受けたのです。子どもたちが安心して過ごせる学校や社会であってほしいという思いから、不適切なアカウントをSNSなどのプラットフォームに通報する活動を始めました。

ただ、こうしたアカウントは凍結されてもすぐに別のアカウントを作ったり、凍結を見越して避難用のアカウントを用意していたりするケースも多く、プラットフォームへの通報だけでは加害と拡散は止まりません。そのため、もっとリアルに取り締まりが行われるよう、警察や学校にもご連絡する形に変化して今に至ります。

永守すみれ(ながもり・すみれ)
ひいらぎネット 代表
1989年東京生まれ、二児の母。2020年から盗撮等の性的被害画像・動画の通報活動を開始。仲間と始めたネットパトロールボランティア団体「ひいらぎネット」の代表を務める。「被害者も、加害者も作らない」を合言葉に、通報と並行してメディアやSNSでの情報発信や講演を行う。第51回放送文化基金賞 調査報道賞受賞
(写真:本人提供)

――デジタル性暴力画像とはどういったものを指すのでしょうか。

正式な定義はありませんが、私たちは「本人の同意なく撮影または生成された画像や動画、本人が拡散を望んでいない性的な画像や動画」をこう呼んでいます。これには児童ポルノやリベンジポルノ、ディープフェイクも含みます。

とくに未成年者のディープフェイク被害はこの1~2年で急速に増えています。AI技術の進歩は速く、昨年の9月頃は1枚の画像から作れるのはヌードや水着の画像でしたが、今は性的な行為を行っている動画までできてしまいます。さらには、卒業アルバムや行事の写真が悪用されているケースが散見されます。

――デジタル性暴力画像は、どのような目的の下で拡散されるのでしょうか。

大きく分けて2つあります。1つはお金儲けの手段として行われるもので、性的な画像や動画を専門に売買するWEBサイトなどで販売されています。XなどのSNSでも売買を呼びかけるアカウントがあります。

もう1つは、性的な趣味嗜好や好奇心を満たすためのもの。例えば、児童生徒の盗撮画像をSNSのグループで共有していたとして名古屋市の教員が逮捕されましたが、報道では金銭的なやり取りがあったという情報はなく、ここは趣味嗜好による盗撮画像の交換がベースになっているコミュニティーだと思われます。

――どのような状況で被害に遭うケースが多いですか。

私たちが見た範囲では被害者の99%が女性ですが、男性もゼロではありません。私の肌感覚では、女子高生の被害が1番多いように思います。駅のエスカレーター、商業施設で参考書などを読んでいる時やお化粧品を探している時、ゲームセンターでプリクラへの落書きやクレーンゲームに夢中になっている時などに狙われることが多いですね。

被害時の服装としてはミニスカートが多いものの、ロングスカートやキュロットの隙間から盗撮したり、パンツスタイルなら下着のラインを執拗に撮影したりといったケースも。どんな服装でも狙われる可能性はあるということです。

教員が羨ましがられ、盗撮が賞賛される「SNSコミュニティー」

――学校内ではどのような被害がありますか。

まずは、「盗撮」。2023年7月に施行された「撮影罪(性的姿態等撮影罪)」に該当するものとしては、階段を上っている時や着替え中などの盗撮が挙げられます。また、撮影罪には該当しないのですが、「太ももの隠し撮り」なども学校で見られる被害の1つです。

このほか、児童生徒のお弁当や体操服などの私物に体液をかける画像や動画、ディープフェイクの投稿による被害などがあります。

【学校で起きているデジタル性暴力の被害】
■盗撮および盗撮画像の投稿など
■児童生徒の私物に体液をかける画像や動画の撮影・投稿など
■ディープフェイクによる性的な画像や動画の作成・投稿など

私たちが見つけた被害画像や動画がどこの学校で撮影されたのか、被害者がどこの生徒なのかが特定できた場合は学校に連絡をしています。ただ、そうやって通報できるものは氷山の一角。性的コンテンツの販売プラットフォームでは、被害画像が「成人女性が同意の下で契約を結んで出演しているポルノ作品」と同じ棚に並べられ、売買されています。そのため、私たちが見つけた画像が被害画像なのか判断がつかないことも多いのです。

――教員の盗撮事件に注目が集まっていますが、学校現場での盗撮は多いのでしょうか。

私たちが把握する範囲では、教員を名乗る加害者も見かけますが、全体で見ると多いとは言えません。ただ、デジタル性暴力画像のコミュニティーでは、教員は「やりたい放題できるね」と羨ましがられるポジションとなっています。

SNSでは興味関心がある情報が集まるエコーチェンバー現象が起こりますが、デジタル性暴力画像のコミュニティーでもそれが発生しています。盗撮画像は“作品”と呼ばれ、投稿した人は称賛されますので、その中にいることで加害行為が正当化・助長される面があると思います。おそらく最初は盗撮画像を見る側で、そのうち「自分にも撮れる・売れるのでは?」と加害側になってしまうのでしょう。

教員だけではない、「子どもによる盗撮」も

――児童生徒が同級生を盗撮してしまうケースもあるのでしょうか。

はい。今の若年層は、昼寝している友だちを勝手に撮影してネットにアップしてしまうなど、撮影行為に対するハードルが著しく低いと感じます。盗撮もそうした感覚で行われているように思います。

また、学校で盗撮可能な人は限られますので、ネット上のコミュニティー内では、教員だけでなく中高生も羨ましがられ、「現役生が羨ましい」「いっぱい撮っておけよ」といった声がかかります。子どもたちが盗撮を始めたり、お小遣い稼ぎを目的に販売を始めたりと、加害側に回ってしまうきっかけがコミュニティーの中には渦巻いているのです。

そもそも今のネット環境に大きな問題があるでしょう。昔は若年層が性的コンテンツに触れる手段は雑誌やビデオでしたが、今の入り口はスマホやタブレット端末。いわゆる公式のアダルトサイトは18歳未満では見られないため、子どもたちはSNSでキーワード検索をします。すると、おすすめの性的コンテンツがプッシュされますが、その中にはデジタル性暴力画像も含まれているのです。

個人的には、思春期に性的コンテンツに興味を持つのは自然なことだと思います。しかし、成人女性が同意の下で出演したポルノ作品と、被害者がいるデジタル性暴力画像の区別がつかないうちから、性的コンテンツを浴びてしまう今のネット環境には危うさを感じています。

盗撮をする子は「バレたらいけない、怒られる」とわかってはいるようです。しかし、法律に違反したらどうなるか、相手がどんな気持ちになるか。そうした意識が足りていないのではないかと感じます。

デジタル性暴力、被害が発覚したら?

――ディープフェイク被害では卒業アルバムの悪用もあるとのことですが、どうしたらよいのでしょうか。

画像が放置されると被害が拡大する可能性があります。被害者が卒業していても、情報を伝えてほしいと思います。

被害者の対応としては、刑事事件として問うなら警察に、民事的な補償を求めるなら弁護士に相談することになります。また、被害画像・動画が手元にあれば、アメリカの民間非営利団体がSNS事業者と運営する「Take it down(TID)」の日本語版に削除依頼をする方法もあります。削除できるのはTIDに参加するプラットフォーマーの領域のみですが、無料です。

そのほか、NPO法人ぱっぷすはAI技術を使ってデジタル性暴力画像の削除要請を無料でサポートしていますし、ライツテックもアプリ「beME」を通じて同様のサービスを提供しています。こうしたシステムは、卒アルの悪用に限らず、デジタル性暴力画像の被害全般において有効です。

――子どもを被害者にも加害者にもさせないために、家庭や学校で何ができるでしょうか。

人権教育がすべてのベースになると思います。例えば、盗撮は撮影罪に問われますが、同級生の画像を基にディープフェイクを作っても、投稿しなければ法律違反にはなりません。しかし、だからと言ってやっていいのでしょうか。小さな頃から「他者の人権や性的尊厳を尊重すること」を伝えていくことが大切です。それも、発達に応じて言葉や表現を変えて、繰り返し伝えていただきたいですね。

また、お子さんにスマホを持たせる時にルールを作るご家庭も多いと思いますが、子どもは成長しますし、デジタル技術も急速に進んでいます。だからこそ、定期的なルールの見直しや再教育を意識していただきたいです。

ただ、すべての家庭でこうした対応ができるとは限らないため、学校でも人権やネットリテラシーに関する教育が重要です。愛知県日進市では盗撮や自撮り被害から子どもを守るため、わいせつ画像をAIで検知するアプリ「コドマモ」を今年9月から全小中学生と教員のタブレット端末に入れることになったそうです。このような加害を作らない環境づくりも大切だと思います。

私たちが学校に「学校内で盗撮されたと思われます」とお伝えすると、「まさか!」という反応が返ってきますが、1人1台端末が整備され、多くのお子さんがスマホを持っている今、いつ盗撮が起こってもおかしくないと捉えていただきたいです。

学校の対応によっては「被害者の権利」が阻害されてしまう

――問題が起こった時、学校はどうすればよいでしょうか。

まずは警察に相談してください。そうすることで、被害者はきちんと被害を訴えることができます。

ある事例では、被害者と加害者が同級生でした。教員が加害者生徒のデバイスから問題の画像を削除させましたが、すでにSNSで拡散されていたことが後から発覚。しかし、加害生徒のデバイスから証拠となる画像を削除してしまっていたため、盗撮扱いにならなかったそうです。このように、対応を間違えると被害者の権利を阻害してしまう可能性があります。

だからこそ、迅速に適切な対応ができるよう、事前に対応策を整備しておくべきでしょう。また、被害者が女子生徒の場合は女性の先生が対応するなど、同性の先生が対応する体制も基本としていただきたいです。

とはいえ、学校のセキュリティではプラットフォームにアクセスできないなど、被害を確認できない場合もあります。現場が可能な対応には限界がありますから、公立学校なら教育委員会に対応窓口があるとよいのではないかと思います。

もう1つ、考えなければならないのが「被害者と加害者を同じ教室で学ばせ続けるのか」という問題。加害者にも学ぶ権利があるため学校からは強く言えないようですが、被害者に負担をかけないことが前提であるべきです。ここも、教育委員会や文科省などの上位機関が指針を示す必要があると思います。

――2026年に運用開始予定の「日本版DBS」は抑止力になるでしょうか。

現状は不十分な点があります。日本版DBSの対象となっているのは、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪、撮影罪などで、子どもの私物に体液をかける行為やディープフェイクの作成などは含まれていません。対象となる性暴力に漏れがないような制度設計を求めます。

また、教員グループで盗撮画像を投稿した教員が逮捕されましたが、画像投稿をしていない参加者も子どもの近くにいてはいけないのではないでしょうか。そうした人も弾く形にしていただきたいと考えています。

(文:吉田渓、注記のない写真:Graphs/PIXTA)