「闇バイト」とは何か?

近年、闇バイトに加わった者の逮捕が相次いでいる。そうした事件報道を見て、「なぜ、すぐに捕まる無計画な犯罪に手を出すのだろうか」と疑問に思う方も多いのではないだろうか。

廣末登(ひろすえ・のぼる)
社会学者/龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員/法務省・保護司
1970年福岡県生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。博士(学術)。国会議員政策担当秘書、福岡県更生保護就労支援事業所長などを経て現職。著書に『闇バイト――凶悪化する若者のリアル』(祥伝社新書)、『だからヤクザを辞められない――裏社会メルトダウン』『ヤクザになる理由』(新潮新書)など
(写真:本人提供)

闇バイトとは、特殊詐欺や強盗などの犯罪の実行役、あるいは、その犯罪に関する支援に従事し、金銭的対価などを得ることの総称である。「バイト」というネーミングで犯罪性が中和されてしまっている印象があるため、とくに青少年はだまされやすいのかもしれない。

SNSなどを通じて闇バイトに応募すると、最初に、応募者の身分証明書のコピー、緊急連絡先と称して実家の住所、電話番号、家族構成や、勤務先などの個人情報の提出を求められる。これにより、応募者が犯罪性に気づいて辞めたいと申し出ても、首謀者から「実家に行くぞ」「ネットに個人情報を晒すぞ」などと脅され、犯罪を継続するよう強制される。闇バイトが減らないのは、こうした仕組みも関係している。

警察庁の犯罪統計資料「刑法犯 罪種別 認知・検挙件数・検挙人員」 によれば、2023年の強盗事件の認知件数は1361件(前年比18.6%増)で、検挙件数は1232件(前年比16.2%増)、検挙された人員数は1601人(前年比21.1%増)と、いずれも増加している。特筆すべきは少年の検挙人員数で、その数は329人(前年比40.0%増)と極めて深刻な増加率となっている。

特殊詐欺で検挙された者も、2015年以降、毎年2000人を超え、2023年の特殊詐欺の認知件数は1万9033件(前年比8.3%増)、被害額は441.2億円(前年比19.0%増)と深刻な情勢が続いている(警察庁「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値版)」)。

こうしたデータからも、背景として闇バイトの存在が大きいことがうかがえる。

「SNS」や「知人」など身近な接点

また、闇バイトは、2022年から2023年にかけて起きた「ルフィ広域強盗事件」以降、犯罪色が濃くなっているように見える。強盗は、対面で被害者をだます特殊詐欺や詐欺盗とは異なり、実行犯のトレーニングの時間が不要だから、今日募集して明日にも犯罪の遂行が可能だ。金銭欲と度胸さえあればできてしまう。そのため、青少年は使い捨ての要員として利用されやすくなっていると言える。

しかも、身近なところが接点となる。警察庁が、2023年に特殊詐欺の被疑者1079人を対象に、その供述や証拠から「受け子等になった経緯」を集計したところ、「SNSから応募」が506人(46.9%)に上り、「求人情報サイト」(53人、4.9%)や「インターネット掲示板」(21人、1.9%)も含めれば、ネット上での勧誘が半数を超えている。また、「知人等紹介」も297人(27.5%)と、生活圏での接点も油断できない。

闇バイトの勧誘は「~するだけ」「~を運ぶだけ」などと具体性に欠く仕事が多いが、いざ蓋を開けてみると、立派な犯罪である。そんな仕事で高額報酬がもらえるはずがない。このような誘いは闇バイトの可能性が高く、友人であったとしても断る勇気が必要だ。

昨年11月、台東区上野の宝飾店に3人組で押し入ったのは、18歳の少年と16歳の男子高校生だった。同年12月、埼玉県久喜市の住宅強盗では、16歳から18歳の男子高校生4人が、住人の女性を包丁やバールで脅して現金を奪っている。両事件の詳細は明らかになっていないが、SNSや地元の人間関係などが入り口となった闇バイトである可能性は十分に考えられる。

なぜ青少年たちは闇バイトに応募するのか?

しかし、闇バイトの危険性は繰り返し報道されているのに、なぜ周知されていないのか。疑問に思った筆者が、講義を担当する大学のクラス(93名登録)の学生に聞いたところ、新聞を読む者は0名、ネットニュースを読む者は1名と、報道に触れていない現状が垣間見えた。

大学生ですらこのような状況だから、一般の若者は推して知るべしである。闇バイトに応募する若者はニュースを見ていないため、その犯罪性や逮捕された時のリスクなどを理解できておらず、「高収入」「即金」などという言葉にだまされるのではなかろうか。

青少年や一般人でもスマホ環境があれば、容易に接触できるアクセシビリティーも大きい。SNSで検索してみると、闇バイトの求人には、「一から丁寧に指導します」「これは犯罪じゃない」「闇バイトじゃない」「弁護士に確認した」などと安心させようとする内容のほか、「稼げます。1日30万円から」など高額な報酬を即金で支払うような甘言が書かれている。

こうした求人にアクセスすると、多くはテレグラム(※)をインストールするように指示され、闇バイトのリクルーターとやり取りすることになる。

※テレグラムとは、通信内容の秘匿性が売りのSNSツール。LINEのようにメッセージのやり取りや音声通話ができるほか、メッセージは一定時間が経過したら自動的に消去されるように設定が可能

当然、紹介される仕事は、受け子や出し子といった特殊詐欺、タタキと呼ばれる強盗などだ。しかし、リクルーターの言葉遣いが丁寧だと、若者は恐怖を感じず、無知であればなおさら高額報酬に目がくらみ、一度だけやってみようかなと考える者がいるかもしれない。

いずれにせよ、情報不足により、警戒心が薄く安易に手を出すのだろう。しかし、この手のネット上の勧誘は間違いなく闇バイトなので、興味本位でアクセスしないように注意してほしい。

アルバイトをする際は、できればネット経由や先輩・友人の紹介を避け、発行元が信用できるメジャーな求人誌や、物理的な窓口のあるハローワークなどで探すのが望ましい。しかし、ウェブ媒体への求人掲載が主流の今、求人サイトを運営する企業も、求人掲載企業の登録に際して、属性確認を徹底するなどの対策が求められる。

捕まるのは末端の「闇バイト要員」ばかり

既出の警察庁による特殊詐欺に関する調査によると、2023年に中枢被疑者(首謀者)で検挙された者は62人(前年比21人増)と、総検挙人員の2.5%に過ぎない。

一方、闇バイト要員である受け子や出し子の検挙人員は1893人と、前年に比べ24人減っているものの、総検挙人員の75.8%を占める。つまり、末端の人間ばかりが検挙されているのだ。この数字を見る限り、闇バイトの取り締まりが奏功しているとは言えないが、警察も手をこまぬいているわけではない。

警察は、昨年から闇バイトに関与していると思われる者たちを「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」と位置づけて取り締まりを強化した。トクリュウとは、元暴力団、準暴力団、半グレ、闇バイト従事者を含む。オール警察でトクリュウの取り締まりに当たっているので、一般の青少年が闇バイトに従事したらまず逮捕されると考えるべきである。

また、昨今、闇バイト従事者が逮捕されると、初犯者でも一般予防の観点から実刑は免れず、多くの場合、少年院や刑事施設に収容される。元検察官は、末端従事者の厳罰理由につき、「受け子・出し子・掛け子は末端の利用される存在であるとはいえ、他方、特殊詐欺組織の中では受け子・出し子・掛け子があるからこそ犯罪が敢行されるから、役割の重要性は否定できず、厳罰の必要性は末端でも変わらない」と述べている。

さらには少年法改正以降、闇バイトに関与した18歳以上の特定少年は逆送優先となっており、刑事裁判で裁かれる。少年でありながら厳罰化傾向にあるのだ。

「既に闇バイトに関わってしまった」「抜けたいけど怖い」と思っている青少年は、1人で悩まず、全国の自治体で教育庁と警察などが連携して設置している窓口「少年サポートセンター」に相談することをお勧めする。新たな被害者を出さないため、犯罪を深化させないためにも、勇気を出して電話してほしい。

環境が変わる新学期だからこそ注意したい

青少年の犯罪対策は、待ったなしである。「うちの子に限って」「大都市圏だから事件が起きるんでしょ」などという無関心や無知が、犯罪の温床となり増幅させていく。

とくに、高校や大学に進学して新生活が始まる時期は、よくない出会いも含めてさまざまな出会いがある。一人暮らしする若者もいるだろう。バイトの稼ぎだけでは物足りず、可処分所得を増やしたい向きもあるかもしれない。

しかし、ネット上には犯罪へと誘う書き込みが無数にある。バイト先の同僚やお客さんからの仕事の誘いも剣呑かもしれない。「自分は大丈夫」と楽観せず、闇バイトの勧誘には気を付けてもらいたい。

これだけ闇バイトが蔓延している現状から、学校現場でも、中学校や高校はもちろん、小学生高学年ごろからの情報リテラシー教育が求められる。先生だけでは手が回らないのであれば、学外から専門の講師を入れることも視野に入れるべきだ。

保護者も、子どもにスマホを買い与える際には、使用のルールを決める必要がある。週に一度は、子どものスマホの通信内容や不審なアプリの有無を確認することも重要だ。スマホを与える親は、子どもが犯罪に巻き込まれないためにも、見守りの労を惜しんではならない。

たった一度の判断ミスの先には、子どもたちの人生を棒に振る「破滅への一方通行の道」しかないのだから。

(注記のない写真:Graphs/PIXTA)