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(申込期限:2023年10月25日、視聴期限:2023年10月30日)
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【Talk Session1】
「大人都合」の学校からの脱却-足並みそろえさせない!令和の学校づくり-
東京都の公立小学校で14年間教員を務めた後、オルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクールディレクター(校長)に就任。2023年9月代々木校を開校。東京学芸大学の非常勤講師(「教育の情報化基礎」の授業を担当)、文部科学省DX推進委員、デジタル庁デジタル推進委員も兼任。著書に『個別最適な学びを実現するICTの使い方』『子どもが自ら学び出す!自由進度学習のはじめかた』(ともに学陽書房)など
公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー、一般社団法人日本授業UD学会理事などを務める。著書に『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(Gakken)、『子どもの心の受け止め方』(光村図書出版)、『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)、『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』(東洋館出版社)など
「自由進度学習」で子どもたちが学習意欲と自信を取り戻す
蓑手氏は教員7年目で杉並区立済美養護学校に赴任。発達段階に大きな差がある子どもたちの学びのために試行錯誤する中で、自由進度学習を導入した。その後も公立小学校の通常学級や、自身が創設したHILLOCK(ヒロック)初等部で取り組みを続けている。
自由進度学習について蓑手氏は「例えば5年生の通常学級では同じ教室に、算数の掛け算ができない子もいれば、高校3年生レベルの数学まで進んでいる子もいる。それぞれが手応えを感じる課題を選び、そのチャレンジを互いにリスペクトして一緒に学ぶ」と説明する。実際に算数でつまずいて学習意欲を失っていた小学5年生が、1年生の繰り上がり足し算に戻って学び直したことで自信を取り戻した経験から、「学習性の無力感は回復できる」と語る。
自由進度学習において、教員の役割は従来の「知識を与えること」ではなく「子どもの特性に応じて学び方を教えること」だと蓑手氏は話す。ヒロックでは、例えば運動会のプログラム作りなどを通して数字の便利さに気づく探究的学習と、算数のトレーニングをする自由進度学習とのループで、子どもたちに学びの楽しさを感じてもらうという。子どもたちは同じ教室の中で、自身の関心に合わせて教科にこだわらず学んでいる。
川上氏は、「子どもの習熟度の差は思った以上に大きい」と話す
「IQ」とは精神年齢を実年齢で割ったパーセンテージで、実年齢と精神年齢が一致すればIQは標準値の100だ。ここで知的障害と判断されるのは、IQ 70未満。つまり通常学級はIQ70〜130程度の子どもたちで構成され、小学4年生(10歳)なら精神年齢が7〜13歳の子が同じ授業を受けることになる。川上氏は「そもそもそろっていないものをそろえようとすることに問題があるのでは」と指摘した。
教員の余裕のなさが引き起こす「教室マルトリートメント」
子どもたちが自分の興味を探索するには、安心して戻ることができる「安全基地」の役割を教員が果たすことが重要だと川上氏は語る。しかしながら、逆に教員が子どもにいら立ち、不適切な指導をしてしまう「教室マルトリートメント」が起きている実態があるのも事実だ。問題のある状況を早く解決したいという焦りや自信のなさ、不安などの感情に、業務の多忙さや周囲とのコミュニケーション不足といった環境要因が加わり、追い詰められた教員が子どもに不適切な関わりをしてしまうと川上氏はみている。
虐待防止法が定める4種類の児童虐待のうち、「身体的虐待」と「性的虐待」は明らかな違法だが、子どもが自信を失うほど威圧的に叱責するなどの「心理的虐待」や、いじめなどの解決すべき問題を放置する「ネグレクト」はグレーゾーンにあり、見過ごされがちだった。この問題は、例えば研修で子どもに害のある言葉(毒語)のリストを作ってチェックするなどの対策では解決しない。川上氏は、「教員が自身に『こうあるべき』とかけた呪縛にとらわれていることを自覚することが大切」としたうえで、「上位者の権威が強い組織ほどマルトリートメントの連鎖が起きやすい。職員室の風通しのよい雰囲気は重要で、毒語に気づいて声をかけてくれる同僚の存在も助けになる」と話す。
教員の余裕のなさについて、蓑手氏は「教員は、自身が受けた教育の中で上手に大人の期待に応えてきた人が多いと思うが、すべての期待に応えようとすれば潰れてしまう。『それをやることで子どもが伸びるのか』を基準に、やらなくてもいいことを決めることも大事ではないか」と語った。
【Talk Session2】
「GIGAスクール構想3年目の実際」-個別最適な学びと協働的な学び-
戸田市教育委員会 教育長 小中学校校長、戸田市および埼玉県教育委員会指導主事などを経て2015年より現職。現在、第12期中央教育審議会委員。その分科会である初等中等教育分科会、教育課程部会、教員養成部会、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会などの委員や、文部科学省の「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けた調査研究協力者会議の委員など幅広い教育カテゴリーの委員を務める。
教育長就任時から、①AIでは代替できない能力やAIを活用できる能力の育成、②産官学と連携した知のリソースの活用、③3K(経験・勘・気合い)から脱したエビデンス重視の教育、④教育を科学すること、という4つのコンセプトを掲げて教育改革を推進している
慶応大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。11年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供、コロナ禍以降は、経済的事情を抱える家庭に対するオンライン学習支援やメタバースを活用した不登校支援を開始するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。
ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。朝日新聞パブリックエディター
「横並び」や「前例」にとらわれない埼玉県戸田市の改革
学校現場の課題は、生徒指導や授業改善、社会に開かれた教育課程など、さまざまあるが、それらを議論するだけでは解決に結び付かない。先進的な改革を実践する埼玉県戸田市の教育長、戸ヶ﨑勤氏は「最大の障害は、横並びや前例踏襲を尊重する教育界のムラ社会的マインドセットだ」と指摘した。「児童生徒が出ていく社会を知ろうとしないのは不誠実」「学校という学びの場を子どもたちが未来を感じられる空間に」「凡庸な90点の取り組みより60点でも夢のある挑戦を」の3つを合い言葉に、変革に向けた現場の自走を促す取り組みをしてきた。
2016年からはGIGAスクール構想に先駆けてICT活用もスタート。当初は「どこの自治体もやっていない」「ICTがなくても困らない」と抵抗の声もあったが、研修の場などで実際に使ってよさを実感してもらうなど、教員の「腹落ち」を重視しながら、ICTを活用したプログラミング教育やPBL(課題解決型学習)のカリキュラム作りを現場教員と進めてきた。
さらに、「AIで代替できない能力」「AIを活用できる能力」の育成や、経験や勘に頼るだけでなくデータを使って「教育を科学する」ことにも注力。教育委員会や市役所内の子どもに関する情報を統合するデータベースを構築し、子どものSOSの早期発見を目指している。また、民間企業に「実証の場」として市内の全18小中学校を提供するという考え方で、企業とのウィンウィンな関係を他自治体に先駆けて構築し、予算をかけずに先端リソース・知見を取り入れた産学連携の例は約100にも上る。
オンラインで小規模高校の探究学習支援や不登校支援を実現
「どんな環境に生まれ育っても未来をつくり出す力を育める社会」を目指して23年前から活動してきたNPO法人カタリバの今村久美氏は、オンライン上で学校・子どもたちを支援する取り組みを紹介した。
1つは学校横断型探究プロジェクト。2022年から高校の新学習指導要領で探究学習が導入されたが、少子化が顕著な地方では生徒数や教員数が少ない小規模校が多く、生徒同士の議論や、生徒の探究テーマと教員の専門性をマッチングさせることが難しい。探究学習が十分に機能していないのも実情だ。「高校がゼロまたは1校しかない自治体は約64%に上る。私自身も保育園から高校まで同級生の顔ぶれが同じという地方で生まれ育ったが、同調圧力が強く固定化した人間関係の中で生徒がチャレンジするのは難しい」と今村氏は語る。
プロジェクトでは小規模校をオンラインで結び、同じテーマに関心を持つ生徒が学校の枠を超えてグループをつくり、テーマに近い知識を持つ教員が担当につくようにしている。各校のリソースを共有することで、外部専門家らをゲストに招きやすくなる利点もある。
もう1つは、オンライン不登校支援プログラム。メタバース上に臨床心理士らを配置し、不登校の子どもが他者とつながる機会を提供。オンラインの学び場や相談窓口もある。近年、不登校や長期欠席は急増しているが、受け皿となるフリースクールや不登校特例校には質・量ともに限りがあり、不登校児童生徒の約3分の1は支援を受けられていない。今村氏は「人とつながらないことに慣れると引きこもりにつながる。家から出られなくても、人とつながれる場があることが大切」と説明した。
この不登校支援プログラムには戸田市教育委員会も参加。プロジェクト開始当初はなかなか、複数の自治体間でオンライン上のスペースをシェアするという考えが受け入れられなかったが、「戸田市が参加してくれて実績ができたことで、ほかの自治体にも広がった」(今村氏)と振り返った。
ICTと教育の今後について今村氏は、「オンラインでできることが増えると、学校は子どもたちの感情がぶつかる場としての価値が重要になる」と予想。戸ヶ﨑氏は「使わない知識をたくさん持たせるより、クラウドを活用して限られた知識を巧みに使えるようにすることが大切。戸田市の事例はオープンにしているのでどんどん活用してほしい」と語った。
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(文:新木 洋光、写真:東洋経済撮影)