息子がかわいくて「全部教えてあげたい」

『お金・学歴・海外経験 3ナイ主婦が息子を小6で英検1級に合格させた話』の筆者タエさんは、高卒で、夫婦ともに海外経験はなし。子どもを塾に通わせる金銭的余裕もなかったが、息子は英語が堪能なバイリンガルとなり、さらに2019年には東京大学推薦入試にも合格した。

喜田 悦子(きだ えつこ)
通称タエさん。大阪府堺市出身。高校の美術科を卒業して就職後、アルバイトを経て結婚し、主婦に。現在は株式会社TOEZ ベビーパークで英語育児部門統括責任者を務める

「両親が『女の子は勉強しなくていい』と言う考えだったので、私自身は『高校も行かなくていいわ』と思っていたくらいで。結局は公立高校の美術科に通いましたが、専門学校や大学は行きませんでした。卒業後は一度デザイナー職に就き、それ以降はアルバイトです」

23歳で結婚し、31歳で念願の子どもを授かったタエさん。息子がとにかくかわいくて、「この子が賢く育つためにできることは全部やりたい」と感じたという。

「たくさん愛情を注いで甘く育てようと決めました。世の中のことを全部教えてあげたいって。自分のことは何も続かない私が、不思議なことに息子のことは毎日できたんです」

その結果、キリくんは小学生で英語がペラペラのバイリンガルに。小学校5年生でTOEIC920点、6年生で英検1級を取得すると、高校では国際物理オリンピックの日本代表に選ばれる。そして19年、東大の推薦入試に合格した。しかしタエさんは「試験のために勉強させたことはない」と言う。現在大学生のキリくんも、勉強をやらされたという記憶はないそうだ。

小学生の優先順位は「遊ぶ」「読書」「算数」

「最優先事項は友達と遊ぶことでした。学校から帰ったら『まず宿題をしなさい』ではなく、『明るいうちに遊んできなさい』。一人っ子なので、友達と遊ぶ時間は何より貴重でした。小学校3年生までは遊ぶほど賢くなるんじゃないでしょうか。優先順位の2位は読書、3位が算数。この順位は絶対で、遊びと読書を中断して算数をさせることはしませんでした」

2位の読書は読み聞かせから始めた。お座りをした頃から日本語の絵本、2歳10カ月になった頃からは英語の絵本を読み聞かせる。英語の絵本は、最終的に2000冊にもなった。お金を工面しつつ図書館も活用して新しい本を常備し、息子が自分で本を取り出せるように扉のない低い棚に入れた。

子どもができるまでの期間が長かったタエさんは「趣味をつくらなければ」と英検に挑戦したという。準2級まで取得するも、2級は難しくて断念。それでも、英語の絵本の読み聞かせでは発音や間違いを気にせず「下手なりに続けてみた」そうだ。

(左)幼少期の頃に使用していた小さい本棚 (中・右)英語の本やビデオなどが入った本棚

「読書は強制しませんでしたが、新しい本は棚の手前や床に置くようにしました。息子の興味をよく観察して、なるべく興味を持ちそうな本を用意しましたね。徹底したのは『片付けなさい!』と怒らないこと。全部出されてもグッと堪えました。おかげで片付けられない男になりましたが(笑)」

幼稚園の頃のキリくん。床には絵本が散らばっている

3位の算数は、日常会話と市販ドリルで。賢くなるには英語より先に数字だと考え、生活の中に算数の概念を盛り込んだ。例えば、割ったお煎餅を「どっちがいい?」と見せ、子どもが「おっき(大きい)!」と答える。これも立派な算数だ。

「ボーロを1、2、3……と数えて『お母さんは3個、キリくんは4個。キリくんのほうが1個多いね』と言ったり、『おやつの時間まであと何分?』と聞いたり。思いついたときに数字を意識しました」

数と時間がわかってきたら、市販のドリルを1ページ目からやる。「標準」レベルのドリルだが、ヒントはすべて破り捨てていっさい教えない。タエさんはただ隣に座って自分の作業をする。

「賢くなるには、正解することより考えるほうが大切です。公式や小手先のテクニックで解いても意味がないので、ヒントはあげませんでした。そしたら小学校3年生の時、息子が分数の代入問題を見て「わあ、このxは大きいね」と言ってから解きだしたんです。私は代入しないとわからないのに、息子は計算式だけで何となく大きさがわかる。『成功しているぞ』と思いました」

便利な公式は教えず、ひたすら暗記型教育ではなく思考型教育を続けたタエさん。あるときは公文式のドリルを渡して失敗するなど、マイペースに試行錯誤を繰り返していたが、学校の算数が週3回程度だったため結果的には先取り学習になったという。

英語は発音を気にせず話しかけてOK

学びを日常生活に溶け込ませること。これがタエさん流子育てのもう1つのポイントだ。3歳前からは会話の2割程度を簡単な英語で行った。例えば、「歯磨きしよう」「手を洗ってうがいね」など。子どもが理解できていなくても和訳はせず、洗面台で手を洗ったら「じゃあおやつを食べよう」とそのまま生活を続ける。

(左)タエさんが自分用に作った、英語で語りかけるためのメモ (右)タエさんが自作した、日常的な英単語のフラッシュカード

「子どもの耳が、自分の下手な発音を覚えてしまうと心配する親もいるでしょう。でも私は、発音よりもコミュニケーションツールとして英語を使えるほうを選びました。日本語も、最初は『トウコロモシ』などと間違えていても、いつの間にか正しい発音が身に付いていますよね。英語も同じだと考えました」

キリくんが唯一通った教室が、英語のプライベートレッスンだ。月謝が高いため、通常より回数を減らして月に2回。カリキュラムは意識しすぎず、テキストの代わりにおもちゃを持って行った。キリくんにとっては近所の家に遊びにいく感覚だったが、タエさんは息子が楽しく過ごせるよう、息子が好きなものをよく観察して講師に事前共有していたそうだ。レッスン中は同じ部屋で見守りつつ、家で自分が使える英語のボキャブラリーを増やしたという。キリくんが通ったいわゆる「塾」のような教室は、小学校1年生までのこのプライベートレッスンが最後だ。

一方、小学校に上がると家にいる時間が減り英語に触れる時間も減っていく。また、この頃からタエさんの英語力がキリくんに追いつかなくなってきた。そこで始めたのが、オンライン英会話だ。1回数百円のレッスンを週に1〜2回受講したが、ここでも最優先は楽しく会話をすること。すると、小学校高学年頃から英語力が安定し、中学校に上がる頃には特に英会話の機会を用意しなくても英語力が衰えることがなくなった。そこからはオンライン英会話も卒業し、引き続き趣味として読書や映画で英語を楽しんだ。

「親の力じゃない」なんてことはない

とはいえ、これらはタエさんが主婦だからこそできた子育てでもある。子どもに寄り添うために、放課後までにすべての家事を終わらせることはなかなか難しい。実際に、タエさんが顧問を務める英語育児通信講座「ベビーパーク」の受講者には共働きも多く、つねに伴走するのは難しいという相談もあるようだ。そんなとき、タエさんは次のように答えるという。

「私にはたまたま『時間』だけがありました。あとは、息子が大好きだという気持ち。この2つを目一杯活用しただけなんです。私にはお金や学歴がありませんでしたが、『ないからできない』と思えばそこで終わり。親は、自分が持っているものを精いっぱい使うだけじゃないでしょうか? 物理的に近くにいられずとも、手紙や伝言で伴走はできます。時間がなくてもお金があるなら、家事を外注して時間をつくってもいいと思います」

「これは息子が賢いだけ。親の力じゃない」――。過去にブログが炎上したことで、逆に「親ができることを精いっぱいすれば、どんな子も賢くなれる!」とスイッチが入ったというタエさん。3ナイ主婦として、「今あるもの」で工夫することの可能性を今も伝え続けている。

(文:中原美絵子、写真:タエさん提供)