世界最高峰エベレストの山頂に向かう長蛇の列。今年5月に撮影された写真を見て驚いたのは筆者だけではあるまい。今シーズン、エベレストでは11人が死亡したと伝えられる。これに山頂付近の渋滞が関係していたというのだから、何とも恐ろしい。
筆者は10年ほど前に妻とエベレスト登山に挑戦した経験がある。だから、このような冒険の魅力も、実感としてそれなりには理解しているつもりだ。
ただ、エベレストでは登山客の多さに興ざめしたことも覚えている。わざわざ行列に並ぶために、苦労して登山を続ける意味があるのか。あの人数を目にしたことで当初の高揚感はすっかり消えうせ、私たちは結局、ベースキャンプを目前に山を下りた。
実はエベレストの混雑問題は、登山路が狭いという固有条件を別にすれば、それほど特殊というわけでもない。需給バランスが崩れ、必要な規制が欠けているときには同じような問題が生じるものだ。
例えば、筆者は抗生物質(抗菌薬)の開発が需要に追いついていない現状に憂慮を深めているが、これもエベレストと同じく、市場メカニズムが適切に機能していないケースといえる。
エベレストについていえば、問題の一端は供給量が動かせないことにある。登山ツアーの参加者は増加する一方だが、登山路は限られる。こうした状況では当然、需給バランスが回復するまでツアー価格を上昇させ、登山者を減らさなければならない。
観光収入を確保したいネパールにしてみれば、受け入れがたい話だろう。ネパール当局からは、次のような反論が返ってくるに違いない。普通の登山客にもエベレストの門戸は開かれているべきだ、と。だが、登山ツアー会社に一段と厳しい安全規制を課す必要がある点には変わりがない。安全基準を厳格化すれば、ツアー価格もおのずと上がっていくはずだ。
この記事は有料会員限定です
残り 629文字
