「仕事を粋にするってどういうこと?」。行きつけの居酒屋で常連に聞かれた。前号に書いた北海道北見市での講演のことを読んでくれたらしい。前号では豪雪の北海道から東京への脱出のことばかり書いて、現地でどんな話をしたか、肝心のことに触れなかった。泡を食っていたのだ。そこであらためて居酒屋口演。「たとえばさ、伊達政宗が部下たちを率いて京都に入ったとき、それぞれの軍装を銘々勝手に粋にさせた。これを見た京の庶民は『伊達だねえ』と感嘆した。伊達すなわちダンディ(dandy)、粋さ」。相手はまだ納得しない。半信半疑だ。そこで政宗の話を続ける。
大坂冬の陣(徳川家康が豊臣氏を滅ぼすため大坂城を攻めた戦い)のとき、講和を前提にしていたから、合戦らしい合戦がなかった。攻撃軍は退屈した。大名の中で誰かが、香合わせ(香木をたいて、においで香木の名を当てるゲーム)をやろう、と言いだした。当てた者には参加者がそれぞれ提供する景品が出る。政宗も参加した。腰に下げていた水筒代わりの瓢箪(ひょうたん)を出した。大名たちは、政宗はやっぱり東北の山猿だ、とバカにした。その瓢箪をもらった大名がいた。イヤな顔をした。政宗はその大名に「あそこをご覧あれ」と指さした。そこを見ると1本の木に見事な白馬がつながれていた。政宗は言った。「貴殿にはあの馬を差し上げる」「え」。大名だけでなく参加者が皆ビックリした。政宗は澄まして言った。「古くから申す、瓢箪から駒が出ると」。大名たちは言葉を失った。バカにした政宗がとんでもない風流人だったからだ。「これが仕事を粋にする歴史の例。北見ではそういう話をしたよ」。相手はようやく納得しうなずいた。
北見ではそんな話をいくつかした。たとえば私がまだ勤めていた頃、家が古いので根太が抜け、積んであった大量の本が一緒に落ちた。ドーンとすさまじい音がした。職場でこの話をした。聞いていたある若い職員がこう言った。「ブックラしたでしょう?」。私は彼に言った、「おまえキライよ。ほかの職場に移って」。粋とはちょっと考えさせるユーモア含みのエスプリのことだ。
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