2021年4月から3〜6年生で教科担任制を導入

まだ暑さが残る9月末、東京・江戸川区の第四葛西小学校では研究授業が開かれていた。場所は体育館。小学3年生の理科「風とゴムの力のはたらき」という単元で、小さな車を使い「ゴムの本数を変えると車が動く距離はどうなるのか」をグループに分かれて実験するという内容だ。

まずは前回の授業「風の強さと車が動く距離」の実験結果を振り返った後、「ゴムの本数を変えると車が動いた距離はどうなるのか」をクラス全員で予想する。「本数を増やすと距離は長くなる」「2本にすると進む距離も倍になる」……など、子どもたちは元気よく手を挙げて答える。「何でそう思うの?」「前回の実験結果と比べてみるとどうかな?」と、子どもたちの思考を促しながら指導をするのは、学年主任の朝倉由美氏だ。

授業をつくるに当たっては、3年生の担任全員で学年の課題を共有したうえで組み立てを行っている。今回は、実験のルールづくりから児童と一緒に取り組むことで学習規律の確立を目指した

小学校では、ほとんどの授業を担任の先生が行うが、朝倉氏はこのクラスの担任ではない。ここ第四葛西小学校では、2022年に導入予定の小学校高学年の教科担任制に先んじて21年4月から3〜6年生で導入しているのだ。

朝倉氏は3クラスある3年生の理科すべてを担当するが、授業をつくるに当たっては、3年生の担任全員で学年の課題を共有したうえで組み立てを行っている。今回は「子どもたちが生き生きわくわくできる内容にしよう」と、教科書にはない発展的な内容を扱う一方、夏休み明けで落ち着かない学年の空気を学びに集中できる環境に整えようと、実験のルールづくりから児童と一緒に取り組むことで学習規律の確立を目指したという。

学年担任という意識が高まり、情報共有の質量にも変化

第四葛西小学校は、児童数726名(19年5月現在)と規模の大きな学校だ。江戸川区のモデル校として、3年生と5年生は国語、理科、社会、4年生と6年生は国語、算数、理科、社会で教科担任制を導入している(教科数の違いはクラス数が異なることによる)。

「時間割の作成と運用で教員は苦労しているが、チームワークよくやってくれており、教科担任制に慣れることで解消できている。だが、課題が多い学校は苦労するのではないだろうか」

こう話すのは、第四葛西小学校 校長の永浜幹朗氏だ。とはいえ導入当初は、「授業が始まっているのに先生が来ませ〜ん」と児童が先生を呼びにくる場面などもあったという。実際に時間割の作成を担当した主幹教諭の鈴木茂之氏は、「1つ授業を動かすとガラッと変わってしまうため、1回形にしてからの時間割の修正が大変だった。ですが、出来上がったものを一度担当の視点で見てもらうことが大事」と話す。

時間割の作成を担当したのは主幹教諭の鈴木茂之氏。「1回形にしてからの時間割の修正が大変だった」と話す

1学期末には、教員へのアンケートも行っている。「運動会の練習や水泳指導の特別時間割による困難が生じた」「通級児童の時間割の調整や変更が難しくなった」「2時間続きで自クラスの授業を行える枠がなくて困った」「月曜1校時が、いつも朝会で短くなる」「週に一度の学年での統一した空き時間は学年会として活用することが少なかった」「低学年も隣のクラスと交換授業をやってみたいと思う」など、さまざまな意見が寄せられた。すべてに対応するのは難しいが、2学期の時間割はこれを基に再編成した。

「週の始まりは、担任が『落ち着いて1週間頑張ろう』という時間を確保したいという声が多く、月曜日の1時間目には専科を入れないようにしました。また週に1度、学年会ができる時間を設定したものの開けなかったという意見が多く、子どもたちが帰ってから開くほうがいいということになり、わざわざつくる必要がなくなりました」(鈴木氏)

教科担任制を導入する目的は、主に4つある。1. 児童の学力向上、2. 複数の教員が多面的に児童を見ることによるきめ細かな指導の実現、3. 小学校から教科担任制に慣れ中学校への移行をスムーズにする「中1ギャップ」の緩和、そして4. 教員の働き方改革だ。

教科担任制の4つの目的
1.  児童の学力向上
2.  複数の教員が関わることで多面的に児童を見ることができる
3. 「中1ギャップ」の緩和
4.  教員の働き方改革

中でも、教員が得意な科目を教える、また教える教科を絞れれば専門性や指導力が上がり児童の学力向上が期待できることは大きい。

担任が、すべての科目を教える学級担任制では、各教科の各単元の授業を行うのは1年に一度だけ。それが教科担任制になると、1年間で複数回同じ単元を教えることになる。一度の準備で3回、4回と授業ができるので、その質も高くなるというわけだ。準備に時間をかけられることはもちろん、課題が出ても「数年後、また3年生の担任になったとき」ではなく、すぐに改善して次の授業を行うことができるメリットもある。

実際、学力向上にどうつなげるか、またその推移をどう見ていくのかには課題がある。だが、第四葛西小学校では複数教員の指導による効果を早くも実感しているという。

「学年担任という意識が、日に日に高まってると感じています。例えば、各教員が授業中だけでなく、それぞれのクラスに出入りして指導するなど、見て見ぬふりをしなくなりました。自分の学級以外の子も『あの子はどうした?』といったように情報共有の質量ともに違ってきています。1学期は戸惑いもありましたが、2学期は先生同士で調整して授業を交換するなど確実に慣れてきています」(鈴木氏)

専科指導の対象は外国語、理科、算数、体育の4教科

文部科学省は、中央教育審議会の答申で「小学校高学年からの教科担任制を(令和4年度を目途に)本格的に導入する必要がある」とされたことを受け、昨秋から「義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方」について有識者会議で議論を進めてきた。

そして21年7月には、外国語、理科、算数、体育の4教科を優先的に専科指導の対象とすべきという報告書を公表。今後は、教科担任制の趣旨・目的の実現に向け、地域や学校の実情に合わせた対応を各教育委員会に期待するとしている。

明海大学 客員教授 釼持勉(けんもち・つとむ)
千葉大学教育学部卒。兵庫教育大学大学院修士課程修了。福島県立西会津高等学校、東京都文京区立明化小学校、北区立滝野川小学校、杉並区立高井戸第四小学校、荒川区教育委員会指導主事、教育庁指導部指導主事、東京都立教育研究所指導主事、東京都教職員研修センター統括指導主事、国立市立国立第七小学校長、小金井市立小金井第一小学校長、帝京大学教育学部初等教育学科教授、帝京科学大学教育人間科学部教授を経て現職
(写真は釼持氏提供)

これまで教科担任制は、令和4年度予算の概算要求を見据えて推進されてきたが、「教員の加配は期待できないと考えるべき」と明海大学客員教授の釼持勉氏は話す。小学校の教員採用倍率が低迷し、少人数学級への移行で教員が必要になる中、新たに専科指導教員を確保することは困難が予想されるからだ。

さまざまな学校で教科担任制の取り組み方について指導を行う釼持氏は「時間割の作成や取り組みに慣れるまで時間を要する。にもかかわらず教科担任制の準備は相当遅れており、改善の兆しが見られない」と警鐘を鳴らす。とくに教育予算に余裕がある自治体や、専科教員が多く配置されている学校は「すでに取り組んでいる」という意識が強く、逆に腰が重いという。

実際、今回取材した第四葛西小学校のような学校内で完結して教科担任制に取り組むことができる大規模校でさえ、時間割の作成や先生たちが慣れるまでにある程度の時間を要している。先んじて教科担任制に取り組む学校からアドバイスをもらって実践した取り組みもあったが、自校にはなじまず、最適なやり方を模索した。

例えば、学級数が少ないなど自校だけで取り組みが難しい学校は、近隣の小学校や中学校との連携、また僻地にある学校は遠隔合同授業で対応することなども考えられるという。できるだけ早期に、学校規模や実情に合わせたベストな方法を教育委員会や校長が、リーダーシップを発揮しながら探っておく必要がありそうだ。

「専門性を持って高度な知識を吸収し、学びの質を高めることはどこの学校でも問われます。人材育成を加味しながら進めていくのが大事で『指導力のある人は高学年、ない人は低学年』では担任する学年が固定化されてしまう。教科担任制がうまくいかないと、学校経営は回りません。みんなで協働しながら全体の指導力の向上を図る教科担任制を進めてほしい」(釼持氏)

今、小学校は新学習指導要領のスタートをはじめ、GIGAスクール構想による「1人1台端末」の導入や新型コロナウイルス対応など、さまざまな課題に追われている。疲れが出ている学校があるのも事実だが、校長のリーダーシップの下、チームワークが発揮できている学校はうまく回っている学校が多い。学校間の格差が、子どもたちの学びの格差にならないよう教科担任制も早めの対応をしていきたいところだ。

(文・撮影:編集チーム 細川めぐみ)