今年の8月11日~13日、新渡戸文化中学・高等学校は、日本と海外の子どもたちをつなぐ「オンラインスタディーツアー」を実施し、中学1年生~3年生の約80名(高校生の希望者数名を含む)が参加した。同校で英語授業を担当する山本崇雄氏は、ツアー実施の経緯について次のように説明する。

「本校は『本物』に触れる学びを大切にしており、今年度は学年混合かつ行き先を選べる形で社会課題を学ぶスタディーツアーを計画していました。しかし、新型コロナの影響で海外渡航が難しくなったため、海外研修はオンラインで代替することにしたのです」

山本崇雄(やまもと・たかお)
新渡戸文化中学・高等学校統括校長補佐、横浜創英中学・高等学校教育アドバイザー。 複数の学校・企業でも活動する“兼業教師”。東京都立中高一貫教育校を経て2019年度より現職。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践している
(撮影:今井康一)

実は、山本氏は2019年秋から月に1度、中学1年生の英語授業でフィリピンの中学生とオンライン交流を行ってきた。同校の生徒とフィリピンの生徒の混合チームを作り、SDGs(持続可能な開発目標)について英語で話し合うというものだ。

こうした実践経験を生かしつつ、現地の状況がより理解できるよう映像を取り入れたり、参加費の一部が交流先に寄付として届く形を取ったりと、「自分事」として社会課題を捉えられるツアー内容を目指した。オンラインであっても「リアルなものを見て感じて、普段の学びをドライブさせてほしい」(山本氏)という願いは変わらない。

つながる先も生徒が選択できるよう、フィリピン、インドネシア、ザンビアの3カ国を準備。フィリピンは「ゴミ山で暮らす子どもたちと『幸せ・豊かさ』について考える」、インドネシアは「伝統と発展が織り交ざるバリ島の子どもたちと『現代化と伝統文化』について考える」、ザンビアは「ストリートチルドレンと交流し、『教育の必要性』について考える」と、各国ごとにテーマを設定した。

ツアーはそれぞれ2日間、各日100分間の構成でZoomによって実施。生徒たちは事前に交流する相手の国について調べ、当日を迎えた。筆者は、ザンビアツアーを見学したので、その様子を紹介しよう。

徐々に緊張がほぐれ、交流を試みる生徒たち

初日はまず、進行役のスタッフによる導入を経て、ザンビアのNPO Cornerstone Of Hope代表の桜子 ムタレ氏の話でスタート。

同NPOが活動する首都ルサカは、家に食べ物がない、経済的な理由で学校に通えない、虐待を受けているなどの理由からストリートチルドレンになった子どもたちや、エイズで親を失った孤児が多いという。同NPOはそんな彼らを保護して教育や給食支援を行っている。

過酷な状況がある一方、過ごしやすい気候であることやフレンドリーな人たちが多いことなど、ムタレ氏は生活者視点の話題も紹介。生徒たちからは「日本との相違点は何か」「なぜ貧困や孤児が生まれるのか」などの質問が出て、理解を深めていく様子がうかがえた。

その後、4グループに分かれ、同NPOが支援する5歳~10代のザンビアの子どもたちと交流を開始。現地の補助スタッフによるアイスブレーキングゲームや、「Hello!」と元気に語りかけてくる子どもたちの明るさに触れ、生徒たちも笑顔が増えていく。

徐々に緊張がほぐれる中、英語で自己紹介を行い、互いの学校生活を説明し合った。新型コロナウイルスの感染対策や水の安全性などさまざまな質問をする生徒たち。ザンビアのスラム街や文化を紹介する映像を閲覧した後の交流では、「子どもを保護する施設が足りていないように思うが、数はどれだけあるのか」といった、より社会課題に迫る質問も出た。

夏休みのため、生徒は自宅からアクセス。ザンビアツアーの参加費用の一部は寄付として、より多くの子どもたちが教育を受けられるよう学校の教室の増築に使われる

英語を積極的に話す生徒もいれば、友達に助けを求める生徒、緊張して話せない生徒など参加の様子はさまざま。しかし、困ったときには大学生のスタッフが「日本語でも大丈夫」と励ますなど状況に応じて支援するので、徐々に主体的に発言するようになっていく生徒も見られた。

例えば、ある生徒は1つの単語がわからず言葉に詰まってしまったが、スタッフからチャットで単語を教えてもらったことで説明に成功。言いたいことが相手に伝わり喜ぶ姿に、筆者もうれしくなった。

最後は各自が学んだことを共有し、「相手の言葉の1単語でもわかったり、自分の一言が伝わったりするだけでもとても価値がある。もし今日、後悔があるなら明日ぜひチャレンジしてください」という山本氏のメッセージで締めくくられた。

オンラインは「どこでもドア」のように活用できる

2日目も基本構成は同じだが、前半は「私の好きな自国の食文化」をテーマにディスカッション。生徒たちは自作のスライドを画面共有し、英語でみそ汁やすしなどを紹介した。食は身近な話題なだけに互いに興味津々で、1日目よりも盛り上がるグループが多かった印象だ。保護施設の生活や卒業生のインタビューを紹介する映像の閲覧を挟み、ザンビアの子どもたちと将来の夢を語り合って交流を終えた。

画面越し、かつ、わずか2日間の交流だったが、ザンビアの子どもたちが持つ明るさや、彼らが将来を見据えて勉強している点などが気づきや学びにつながった生徒が多いようだ。寄付への意識がより高まった生徒も少なくない。

「募金をするだけでなく、呼びかけもしてみたい」と話すのは、山下大翔さん(高校1年)。張家ヰエナさん(中学1年)は、ツアーの合間にインターネットで具体的な寄付や支援方法を調べたという。草鹿結さん(高校2年)は、「SDGsの1番に掲げられる貧困問題はもっと広い認知が必要。そのためには、安心して募金ができる認証マークを作るなども1つの方法ではないか」と語った。

ツアーを終え、山本氏はこう話す。

「生徒たちが、普段学んでいることがリアルの社会とつながっていると理解することが大事。今回のツアーもそれを考える機会の1つです。オンラインは移動時間をかけずに授業でもつながれる利点があるので、新型コロナに関係なく今後も『どこでもドア』のように活用していきたいと思います」

GIGAの影響で公立校でも導入が増加

ツアーを協同で実施したWith The World代表取締役社長の五十嵐駿太氏によれば、オンラインによる国際交流のニーズは高まっているという。同社は、18年4月に創業した教育ベンチャー企業だ。当初からリアルの「海外スタディーツアー」と「オンライン国際交流授業」の2つのプログラムを提供してきたが、当時は対面がよいと考える学校がほとんどだったという。

五十嵐駿太(いがらし・しゅんた)
With The World代表取締役社長。大学在学中にフィリピンのスラム街の子どもたちと交流した経験を機に世界の現状を学ぶ。大手人材会社で営業や新規事業開発を経て、2018年に同社を起業

ところが、コロナ禍で状況は一変。それまでオンラインプログラムを採用するのは新渡戸文化中学・高等学校と関西学院高等部のみだったが、この1年半で問い合わせが急増した。20年5月から提供を始めた「オンラインスタディーツアー」を含むオンラインプログラムの導入は、私立校を中心に60校(中学・高校・大学の合計)まで増えている。

「SDGsを授業で扱いたい学校や、今後の社会を見据えてアジアの英語に触れさせたいという学校が年々増えています。そうしたニーズの変化も大きい」と、五十嵐氏は話す。

同社のプログラムは、SDGsなどの社会問題について考えて議論する授業を軸にしており、学校や教員の希望に合わせてオーダーメイドで作る。「米国の大学生とつなぐプログラムが多い中、アジアの同年代の子どもたちと協同作業する環境を調整できるのも特徴」(五十嵐氏)で、アジアのみならずイスラエル、パキスタン、ザンビアなどの国と交流できる点も珍しいため、学校現場からの引き合いが多いのだという。

しかし、実は海外からのほうが、依頼が増えている。昨年度は姉妹校同士の口コミを通じて、インドネシア、エジプト、フィリピン、インドなどを中心に導入校が増加。現在、60カ国350校で提携実績がある。日本の学校とつながりたい国は多く、日本はすぐマッチングが埋まるという。

「GIGAスクール構想で配られた端末の活用が進めば、海外とつながる授業が当たり前になるかもしれない」と、五十嵐氏は考える。実際、国際交流や外部講師などの予算を使い、オンラインでの国際交流を行う公立校が増えているという。同社のオンラインプログラムは、2コマで1人5000円が目安。とくに端末整備が整った21年度は教育委員会のほか、総合的な探究の時間や英語科を担当する教員からの問い合わせが増え、「1クラス分ならできそう」「月に1度なら可能かも」と検討を始めるケースが出てきているという。

兵庫県立国際高等学校は今年7月に学校でフィリピンのオンラインスタディーツアーを実施
(写真:兵庫県立国際高等学校提供)

例えば、教育委員会経由の依頼では、滋賀県立守山高等学校とバングラデシュの高校をつなぐ文化交流や、過疎化が進む福岡県遠賀郡水巻町立水巻中学校と水巻南中学校がインドネシアのジャカルタとつながる授業などを実施。学校単位の依頼では、淡路島にある兵庫県立洲本実業高等学校がバリ島とつながり、共通の観光課題について意見交換を行った。

関西学院高等部とザンビアの交流後に行ったアンケートでは、参加生徒の95%が「現地に行きたい」と回答した。子どもたちの反応から、「新型コロナの収束後も、まずはオンラインで海外学習のハードルを下げてから現地に行く」というオンラインとリアルの二段構えで海外交流を考え始める学校も少なくないという。

新型コロナウイルスの収束の見通しが立たない中、オンラインを活用した国際交流のニーズや学びの可能性は、まだまだ広がっていきそうだ。

(文:編集チーム 佐藤ちひろ、注記のない写真はWith The World提供)