N高の生徒数が、開校時の10倍に増加
N高等学校は、角川ドワンゴ学園が2016年に設立した通信制の高校だ。“ネットの高校”と称されるように、ICTを活用して高校卒業資格取得に必要な授業をオンラインで受けられるのが特徴である。開校時の生徒数は1482名。現在は、その10倍以上となる1万5803名(20年10月1日現在)にまで生徒数が増加しており、新たに姉妹校をつくることになったというわけだ。
その理由として、これまで通信制高校は消極的な選択としてみられてきたが、積極的な選択肢の1つになってきていることが挙げられるという。開校当初は、斬新な教育システムと校名も相まって「本当の高校ですか?」と言われることもあったが、最近ではそんなこともなくなっているようだ。実際、すでにやりたいこと、自分の道が決まっていて、「時間を有効に使いたい」「課外授業を通して将来やりたいこと、夢を見つけたい」といって入学する生徒も多いという。
一方で“ネットの高校”だから、わざわざ姉妹校をつくる必要はないのでは? と考える人は多いだろうが、N高はキャンパスを持っている。普段、生徒はネットを通じて、自分の好きなときに好きな場所で、好きなだけ学んでいるが、スクーリングと呼ばれる対面形式の授業への参加が、年5日程度求められるのだ。高校卒業資格取得に関わる制度上、必須なカリキュラムという。1年次と3年次は、全国のスクーリング会場で実施。2年次のみ沖縄県うるま市の伊計島にある本校で4泊5日にわたって行われる。
この伊計本校におけるスクーリング時の教室と、宿泊施設の受け入れ人数が2万人で、今後キャパシティを超えることを見越して新たな高校、S高をつくる決断に至ったという。キャンパスの場所は、日本有数の学術都市である茨城県つくば市。廃校となった筑波西中学校の校舎を活用して、21年4月に開校予定だ(設置認可申請中)。
VR空間で学習できる「普通科プレミアム」も新設
エンジニア出身で、角川ドワンゴ学園のプログラミング教育を構築してきたS校 校長の吉村総一郎氏はこう話す。
「S高の本校があるつくば市の最寄り駅であるつくば駅は、東京の秋葉原駅からつくばエクスプレスを使えば、1時間かからずに着く首都圏からのアクセスがよい場所。また、つくば市は筑波大学や、さまざまな研究機関がある筑波研究学園都市として有名で、宇宙開発やロボット開発をはじめ、多種多様な研究が行われている。大自然に囲まれた場所でもあり、筑波山のふもとにあるS高は校舎も広大。スクーリングでは、そんなつくば市の魅力を生かした課外活動を予定している」
N高に対し、S高という校名が興味深いが、N高とS校の2つの高校に違いはない。パソコン、スマートフォン、タブレットで日々学習し、学びの内容も同じという。スクーリングのみ、在籍するそれぞれの学校で参加するといった具合だ。
来年4月からは、これまでの映像学習で学ぶ「普通科スタンダード」に加え、最新のVR技術とデバイスを活用した「普通科プレミアム」も開設される。「普通科プレミアム」では、生徒はVRゴーグルを装着して学習空間にワープし、仮装現実の中で参加型、体感型の学習ができるという。
VR空間の校舎は、建築家の隈研吾氏がデザイン。生徒はアバターになってVR空間上の教室で授業を受けるのだが、ほかの生徒が授業を受けていた際の動き(モーション)のログが残るため、周りに仲間の存在を感じながら学ぶことができるという。
さらに、ネット上で少人数のグループワークによって学習を進める「オンライン通学コース」も開設される。
これまでも、映像で学ぶネットコースのプラスアルファの学びとして、通学コースがあった。週1日、3日、5日と通学する頻度を選べ、自分のライフスタイルに合わせて学習プランを組み立て、全国19カ所にあるキャンパスで学ぶことができる(通学プログラミングコースは東京・代々木と大阪・江坂のみ)。それに対し「オンライン通学コース」は、「オンライン」キャンパスに集って少人数の対面形式で学ぶコースになっている。
“ネットの高校”として誕生したN高は、VRのような最新の技術も取り入れながらネットとリアルの学びをうまく使い分けているといえる。今、個別に最適化された学びがキーワードとなる中で、こうした学び方の選択肢の多様化が、子ども一人ひとりの可能性を広げることにつながっていくのではないだろうか。
(写真はすべて角川ドワンゴ学園提供)