放課後の課外活動としてロボットクラブを運営

沖縄アミークスインターナショナルは、私立の幼・小・中一貫校。ロボットプログラミングは、同校の放課後課外活動「キッズ/ジュニアクラブ」で取り組んでいる。この課外活動は、いわゆる部活動ではない。同校のデイキン・セバスチャン校長は次のように説明する。

「キッズ/ジュニアクラブは、子どもたちが学校にいながら専門的な知識を身に付けたり運動に取り組んだりできるプログラムです。乗馬やサッカー、バスケットボールなどのスポーツ系、ミュージッククラブ(ピアノ、バイオリン、三線など)や染色クラブ、陶芸クラブの文化系など10種類以上があり、ロボットクラブもその1つです」

いわば放課後にそのまま“習い事”が受けられるようなものだ。しかし、なぜただの「プログラミング」ではなく、より難易度の高い「ロボットプログラミング」なのか。デイキン校長はこう明かす。

「実は、ロボットクラブ開設の前年度は、ある企業に依頼してプログラミングのプログラムを用意していました。でも、さまざまな事情で継続が困難となり、代わりにやってくれる企業や講師も見当たりませんでしたので、PTAの佐和田尚登さんに相談したんです」

佐和田さんは、サーバー・ネットワークエンジニアとしてのキャリアを生かしてPTAサイトの構築を担当していた。学校にしてみれば「ITに詳しい人から子ども向けプログラミングスクールの情報を収集したい」という軽い気持ちで声をかけたのだろう。ところが佐和田さんは、期待をはるかに超える提案を学校に持ちかける。

ホワイトボードで子どもたちに解説する佐和田さん。ロボットが十字路で正しく動くためのプログラムを説明している

「ちょうど、長男とともにロボットプログラミングを学んで2年が経過したタイミングでした。当時、沖縄県内にはロボットプログラミングを教えてくれるスクールがなく、WRO(World Robot Olympiad)参加のチームメンバーを集めるのも非常に苦労していたので、コミュニティーをつくりたいと思っていたんです。そこで、『素人が教えるのでよければ私がやります』と申し出ました」

学校側としては、保護者に外部講師を依頼することに最初は戸惑いもあったようだ。しかし、同種のスクールが県内にない状況下で、独学とはいえ2年の経験があり、さらにコミュニティーづくりに熱意を持つ人材はそういるものでもない。しかも、モニター上で完結するプログラミングより、ロボットプログラミングのほうが子どもたちの興味を引くことは容易に想像できる。かくして佐和田さんの提案は受け入れられ、「アミークスロボットクラブ」はスタートした。

小さな目標の設定と、取り組みの「見える化」

アミークスロボットクラブの運営方針は非常に明確だ。大目標として「WROで勝つこと」を掲げ、そのためにすべきことを逆算して決定している。佐和田さんは次のように説明する。

「長男とロボットプログラミングに取り組んだ経験から、目標がないと飽きてしまうことはわかっていました。そこで、WROを大目標にしながら、小さな目標をつねにクリアできるようにドリル制を導入したんです。問題をたくさん用意して、クリアしたらみんなが見えるように印をつけました。そうすると、誰がどこまで進んでいるかがわかるので、『負けないように頑張ろう』とお互いに思うようです。すべてをクリアしたら『ドリルマスター』になるというゲーム要素も盛り込み、楽しみながら競争し合えるようにしました。また、定期的に模擬大会を実施し、ロボットコンテストの雰囲気を仮想体験する取り組みも行いました」

WRO2020を直前に控え、チームメンバーで意見を出し合いながら、ロボットの製作を行う

目標達成に向けたロードマップを用意し、進捗を「見える化」する――まるでビジネスを着実に進めていく企業のようだ。さらに“褒める”ことも意識して、子どもたちがのめり込みやすい環境を整えていった。

「妻と2人でロボットクラブを運営していますが、妻には“褒め担当”になってもらっています。ロボットプログラミングは、思いどおりに動かすことが難しいので、褒めるポイントがたくさんあるんですよ」

ちょっとしたことでも“褒め”の対象となるほどの難易度の高さは、生半可な取り組みでは通用しないことを意味する。精度を高めるため、時間も増やしていった。週に1回のキッズ/ジュニアクラブの時間に加え、土曜・日曜は終日練習時間に充てている。そうなったきっかけは、クラブ開設初年度にWROのミドル部門(プログラム制御の基礎技術を確認する内容となっている)で全国優勝を果たしたことだという。

「小学校の課外活動ですから、初年度は少し緩い雰囲気で取り組んでいました。もちろんWROを目標にはしていましたが、楽しみながら学ぶ延長線上でロボットコンテストに出場しようという感じだったんです。しかし、初心者中心のカテゴリーとはいえ、全国優勝したことで県内のテレビや新聞で取り上げられ、子どもたちの目の色が変わりました。それから本気で勝つための運営に切り替えたんです」

「英語」「ICT」を重視する学校方針とマッチ

当然、時間も費用もかかる話だけに、保護者の了承が必要だ。そのため、クラブへの入会希望者には必ず説明会を実施している。

「ロボットの製作、プログラム作成は時間がかかるため、例えば夏休みの家族旅行や短期留学に行けない可能性があるとか、また、教材費や遠征の旅費など負担がかかることなどをしっかりと伝え、それでも挑戦したい方に入部を案内しています」

一見、厳しさばかりが目立つようだが、保護者はロボットクラブの活躍を好意的に受け止めているようだ。デイキン校長は次のように話す。

「子どもたちはそれぞれ得意なこと、不得意なことがありますので、輝ける機会をいろいろなところで用意したいと思っています。そうした意味で、放課後の課外活動ではありますが子どもたちの可能性を広げる場として、キッズ/ジュニアクラブは非常に重要だと考えています。保護者の皆様とのお話でも、ロボットクラブや乗馬クラブが話題に上ることは少なくありません。逆に、クラブの活動が授業での学びに好影響を与えることもあり、とりわけロボットクラブのメンバーは、物事を整理して発言する力が非常に伸びている印象があります」

また、同校の教育方針がロボットプログラミングに取り組みやすい素地を養っているのも事実のようだ。

「現在の重要なキーワードである『変化』に対応する力を身に付けるのが、アミークスの方針です。そのため、とくに『英語』と『ICT』には力を注いでいます。低学年でもiPadに加え、各教室にスマートボード(電子ボード)を設置するなど、子どもたちが自分の発想をしっかり伝えるのに役立つデバイスを用意しています」

佐和田さんは、こうした教育方針によるロボットプログラミングへの効果を次のように説明する。

「やはり、ICT教育がしっかりされていることで、パソコンをイチから教えなくて済むのは大きいですし、英語ができることは国際大会に出場したときのアドバンテージとなりました。加えて、伸び伸び楽しんで学べることが、私も子どもたちをアミークスに通わせている大きな理由なんですが、そうした豊かな発想力が育まれる環境が整っていることで、プログラミングの理解力が高い子が多いと感じています」

「点の取り組み」にとどまる日本の現状

佐和田さんもそう認めるように、ロボットプログラミングに取り組みたいと思う子どもたちにとって、同校は恵まれた環境だといえよう。設立3年目の2019年には、高度な知識と技術が求められるWROのエキスパート部門でも全国優勝を果たす。しかし、同年にハンガリーで行われた国際大会に参戦し、佐和田さんは世界との差を痛感する。

「WRO2019 ハンガリー国際大会」の際に、最初の競技で満点を取った時のもの。世界74カ国から423チーム(小学生は92チーム)が参加し、2日間にわたって競技が行われた

「6位入賞と結果だけ見れば上々でしたが、とにかく技術力の差を見せつけられました。発想力もアプローチの方法もまったく違っていて、何をどうすればそんなレベルに到達できるのかわかりませんでした。ロボットコンテストは、まずゴールすること自体が難しい綱渡りのようなものなので、まず精度を高めたうえでスピードを上げていくんですが、世界トップは目指すレベルが相当高いところにあります。私たちも、日本大会で約1分かかっていたのを40秒までスピードアップして臨みましたが、世界トップは30秒を切っていました」

なぜそこまでの差が出るのか。佐和田さんは「個の取り組みの限界」と分析する。

「トップクラスの国はサポート体制がしっかりしています。まずは資金面。ハンガリーの国際大会に出場するのに必要な費用は1人当たり40万円でしたが、私たちは国や県、市のサポートはまったく得られませんでした。問い合わせたところ、スポーツ競技に対する補助はあるがロボット競技は対象外とのことでした」

アミークスロボットクラブは募金活動を展開して遠征費を確保したが、中には資金が足りずに国際大会を断念する子どもたちもいるという。強い興味を持ち、いくら技術や知識の習得に努めても、それを生かせないおそれがあるのだ。

「もう1つわかったのは、『教える側』、つまりコーチの教育をしっかりしているということです。日本では、私たちのようなクラブ活動やロボットプログラミングのスクールしかなく、ノウハウを共有する仕組みがありません。そのため、点の取り組みにとどまってしまっています」

学校教育がそうであるように、ノウハウを共有して好事例を横展開することは全体のレベルアップにつながる。逆にいうと、それがないロボットプログラミングは、取り組みの広がりが期待できない。資金のサポートもなく、教育体制も整っていない状況下で、どうやってロボットプログラミングに取り組む子どもたちを増やしていくのか。ただでさえデジタル人材不足が深刻化している中で、せっかく興味関心の芽があっても、育む環境がないのでは話にならない。佐和田さんは、そうした状況に風穴を開けるため、他の地域とともにロボット競技をする企画も進めている。

「今後は県内外のクラブの皆さんとロボット大会の開催などを通して、少しずつコミュニティーを増やしつつ、ノウハウを共有してお互いを高めていけるような環境をつくっていこうと思っています」

大切なのは、こうしたアクションを子どもたちのICT教育につながるムーブメントに発展させていくことだろう。「1人1台PC」が実現しつつあり、オンラインでいつでも交流が可能になった今こそ、全国の小学生が持っている興味関心の“種”を一気に芽吹かせ、デジタル力を開花させるチャンスなのではないか。

(写真はすべてアミークスロボットクラブ提供)