｢プリズンエスケープ｣に見る差別政策との戦い アパルトヘイトに反対する白人運動家がいた

そこでティムたちは、「俺も計画に参加させろ」と声をかけてきた囚人レオナールを加えた3人で脱獄計画を練り始める。厳しい看守の目がある中、綿密な観察とトライ・アンド・エラーを繰り返す3人の男たち。10の剛健な“鉄製”のドアを突破するために、彼らはいかにして簡単に折れてしまうような木から鍵を作り出したのか。その緻密に練られた脱獄計画の過程は非常にスリリングで、手に汗握るものがある。

主演のダニエル・ラドクリフ（左）は、役作りのためにヒゲをそらずにいただけでなく、アパルトヘイト政策について熱心に勉強したという ©2019 ESCAPE FP HOLDINGS PTY LTD, ESCAPE FROM PRETORIA LIMITED AND MEP CAPITAL, LP

主人公ティムを演じるラドクリフといえば、子役時代から青年になるまで、10年近くにわたって映画版『ハリー・ポッター』シリーズに出演。世界中の観客が、彼の成長を見守るような思いで、親しんできた。そんな彼も、今年で31歳となり、すっかり大人の俳優となった。

本作では囚人の役ということで、無造作に伸びた髪、あごまでビッシリ生えたヒゲなど、ハリー・ポッターのイメージを払拭するようなビジュアルを披露。ダニエル自身も、英国デイリー・ミラー紙のインタビューに「“役作りのために、何か月もヒゲをそらないでくれ”と言われるなんて本当に素晴らしいことだよね。僕は無精ヒゲがないと、ちょっぴり疲れた子どもみたいに見えてしまうんだ」と語っていたという。

「自分のやりたい役を選んでいる」と公言する作品選びも、近年はどんどんユニークさが増している。例えば孤独な青年と死体が友情を育むという奇想天外なドラマ『スイス・アーミー・マン』（2016）で死体を演じたかと思えば、バイオレンスアクション『ガンズ・アキンボ（原題）』（2020年公開予定）では両腕に銃に固定された男を怪演するなど、作品の大小問わず、実に幅広い。

「深い研究」が映画にも生かされる

本作では、脚本を読んだラドクリフが「この話はもっと広く知られるべきだ」と感じたことで、前代未聞の脱獄計画を企てる政治脱獄犯を演じることを決意したという。

ティム・ジェンキンを演じるにあたり、彼の多くのインタビューに目を通し、さらに南アフリカの歴史なども深く学んだというラドクリフ。参考資料として、本作に大きな影響を与えたという、ロベール・ブレッソン監督の『抵抗（レジスタンス）－死刑囚の手記より－』や、ジャック・ベッケル監督の『穴』といった脱獄を題材とした作品を鑑賞したという。

さらにティム本人に会う機会もあったそうで、その時は彼に根掘り葉掘り尋ねたという。後にティムは英国イブニングスタンダード紙のインタビューで「彼は素晴らしい俳優だ。彼はアパルトヘイト下の南アフリカについていろいろと聞いてきて、それをすべて取り入れていた。なぜなら、台本や本からは拾いきれないものがあって。そこにいなければわからないことがあるからね」と振り返っている。

本作のメガホンをとったのは、「反アパルトヘイト闘争のこれまで描かれなかった視点、すなわち反体制派に協力した白人の視点もまた、私には魅力的でした」と語るイギリス出身の新鋭フランシス・アナン監督。

本作が長編デビュー作となる彼は、「これまで白人はしばしば侵略者として、あるいは傍観者として無力であるかのように描かれてきました。これらの描写のみでは、アパルトヘイト政権への何十年にもわたる広範な闘争がどのように展開されたかを理解するうえで、真実を読み取ることはできません」とコメント。社会の分断が当たり前とされてきた世界の中で、人々の平等を求め、戦った人たちの姿に新たな視点をもたらしている。

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