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赤字事業が財務を圧迫し、談合や裏金などの不正も横行――。2000年代に経営難を経験したポンプ大手の荏原は、社外取締役の積極的な起用でコーポレートガバナンス(企業統治)改革を成し遂げた。会社存亡の危機から、どのようによみがえったのか。(前編はこちら)
ある日突然、腹心を密室に呼び出して「次を頼むよ」と告げる。そんな伝統的ともいえる社長人事は、本当に正しいのか。荏原で07~13年に社長を務め、低迷期からの立て直しに奔走した矢後夏之助氏は、ずっと疑問に感じていた。
矢後氏自身も前任者から託されて社長になり、退任時には自ら後継者を決めた。「選ぶ側」になったからこそ、個人に全権を委ねることへの疑問が強くなった。経営トップといえども毎回、社内の全人材から最適解を導けるとは限らない。目立ちやすい、優秀なジェネラリストを優先しがちではないか。でも会社の状況は刻々と変化していく。求められる才能はその瞬間ごとに異なるはずだ。
加えて、選ばれた側が前社長に気を使い、路線を引き継ごうとする懸念も残るだろう。うまくいっている間はよい。しかし、どこかで歯車が狂えば、忖度(そんたく)から抜け出せなくなるかもしれない。最悪の場合、赤字事業を制御できなくなった「あの頃」へと逆戻りする羽目になる。
ならばいっそ第三者が客観的に評価し、次のリーダーを見極めるべきではないか。そう思い至った矢後氏は会長だった15年、指名委員会等設置会社への移行を主導した。社外取が過半数を占める3委員会(指名、監査、報酬)を設置し、執行役は業務遂行、取締役は監督にそれぞれ専念する形態だ。
中でも指名委員会は名称のとおり、取締役の選解任を担う。つまり社長を誰にするか、いつ辞めさせるか、社外取が中心となって決めるのだ。先進的なガバナンス体制とされるが、後継人事権を手放す心理的なハードルは高く、26年8月時点でも東京証券取引所の上場企業のうち採用社は約3%にとどまる。
経営チームを丸ごと育成
荏原の場合は、社長任期を最長6年と定めた。指名委の初代委員長は、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の宇田左近氏。社長候補を検討する過程で重視したのは、「これまで」ではなく「これから」だという。過去に大きな実績を上げていても、同じやり方が5年後、10年後にも通用するかはわからないためだ。
未来の荏原は何で稼ぎ、市場環境はどうなっているのか。その中で必要な能力を持つ者は誰か。これらの視点で3年かけて選ばれ、19年に社長となった浅見正男氏(現会長)は、一部ポンプの選別受注などの改革を断行。懸案だった採算性を改善したほか、半導体ブームにも乗った。就任直前期に324億円だった営業利益は、24年度に約3倍の979億円まで伸びた。

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