現在、教育は再生の過程にある

政府が最重要課題に掲げているのが「教育再生」。教育振興基本計画に基づき、教育再生のための施策が推進されている、というわけだ。2022年度までを対象としている教育振興基本計画(第3期)で教育政策の中心に据えているのが、「人生100年時代」「超スマート社会(Society5.0)」の到来に向け、生涯にわたる一人ひとりの「可能性」と「チャンス」を最大化すること。次の5項目を基本的な方針としている。

1.夢と志を持ち、可能性に挑戦するために必要となる力を育成する
2.社会の持続的な発展を牽引するための多様な力を育成する
3.生涯学び、活躍できる環境を整える
4.誰もが社会の担い手となるための学びのセーフティネットを構築する
5.教育政策推進のための基盤を整備する

基本方針1の施策として新しい学習指導要領が位置づけられ、GIGAスクール構想は基本方針5の施策と理解できる。今後も、基本方針に沿った多彩な施策が繰り広げられるだろうが、具体的な教育政策の遂行に当たっては、PDCAサイクルを機能させるとともに客観的な根拠に基づく政策立案(EBPM:Evidence‐Based Policy Making)の重要性を指摘してもいる。EBPMの精度を向上させていくためにも、教育現場のICT活用が1つのカギを握っているともいえるだろう。

初等中等教育の行方

グローバル化や知識基盤社会の到来、少子化進展によって教育の重要性は高まっている。予測不可能な社会を自立的に生きていくための資質と能力を育成していくには、学校教育も変化していかなければならないと白書では指摘している。

実際、さまざまな課題がある。児童生徒の語彙力と読解力低下が指摘され、高校生の学習時間は減少し学習意欲も希薄化。児童虐待相談対応件数は過去最多を記録し、不登校や外国人など特別な配慮を必要とする児童生徒も増加している。一人ひとりの可能性とチャンスを最大化する、誰一人置き去りにしない教育を実現するために、児童生徒への支援体制が求められている。

公立学校に在籍する、日本語指導を必要とする外国籍の児童生徒は4万755人(2018年5月現在)、2016年度と比較して6420人増加している。また、日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒は1万371人。2019年度に学齢相当の外国人について就学状況を調査した結果、不就学の可能性のある外国人の子どもは約2万人いることがわかった。不登校については、国公私立の小中学校で約16万5000人、高等学校で約5万人(2018年度)。高等学校の中途退学者数は約4万9000人(同年度)で在籍者に占める割合は1.4%となっている。

一方、教師の長時間労働や採用選考試験の競争率低下は深刻なレベルとなっている。学校のICT環境は脆弱で地域間格差も大きく、白書では危機的な状況と表現。こうした現状を受け、中央教育審議会に、新時代に対応した義務教育と高等学校教育のあり方、増加する外国人児童生徒への教育、教師や教育環境整備について諮問している。

公立学校における働き方改革については、所定の勤務時間を超える在校等時間の月45時間、年360時間の上限ガイドラインが示され、法的根拠のある指針に格上げされている。また、休日のまとめ取りの推進については、地方公共団体の判断によって導入が可能となるよう法改正が行われた。今後、勤務時間管理をはじめとした働き方改革を進めていくうえで、教師でなくてはできない業務とそれ以外の業務の仕分けをするなど、業務内容の見直しが欠かせない。

少子化の流れは学校づくりにも影を落としている。小中学校では一定の集団規模の確保が望まれ、12学級から18学級、通学範囲は小学校で4km以内、中学校で6km以内という適正規模を示している。が、この10年で小中学校の1割にあたる約3000校が減少し、標準規模に満たない学校は約半数に上っている。小規模化に伴う教育面でのデメリットが懸念される一方で、地域コミュニティーの核としての学校の重要性も無視できない。少子化に伴う課題の解決に当たって、新しい教育モデルの創出が期待される。

複雑に絡み合った課題に対してどのような解を見いだしていくか。客観的な根拠に基づく政策立案を実現していくためにも、データの収集と検証をベースにした幅広い議論が欠かせない。その意味でも、例えば今回の休校措置についても、具体的な取り組み内容とその検証が、次の政策立案に生きていくのではないだろうか。(写真:iStock)