「GIGAスクール構想」を一言で言うと?
昨年末、文部科学省から「GIGAスクール構想」が発表された。GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allの略。小・中学校の児童、生徒に1人1台PCを実現することや、全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを完備することなどが盛り込まれた政策だ。多様な子どもたちに最適化された学びや、創造性を育む学びに寄与すると期待されており、令和元年度補正予算に2318億円、令和2年度補正予算に2292億円が計上された。
「GIGAスクール構想を一言で言うと、ICTのよさを生かした教育をしていこうということです。これまでは遠隔教育も認めていなかったわけですが、一部で進めている所はありました。例えば、福岡県北九州市の東筑高等学校や、長崎県対馬市の上対馬高等学校では、慶応大学の梅嶋真樹教授が中心となって、過疎あるいは離島山間地域の教員不足を補う遠隔授業を実施していました。また東京都千代田区の麹町中学校では、AI型タブレット教材を先んじて導入し、いろいろな取り組みを行って効果が出てきています。こうしたことをみんなが評価するようになって、全国展開しようという空気になっていました。
GIGAスクール構想は、最終的には文部科学省に加えて経済産業省、総務省の3省が一体となって実現したものであり、ICT教育の大きな飛躍になると考えています。しかも、実際にオンライン教育をやってみると、わかりやすいと評判もよい。小学1年生から中学3年生まで、すべての子どもたちが端末を使って勉強できるようになるため、本格的にオンライン教育を推進できるようになります」
1人に1台の端末が整備されることによって、学びはいっそう充実するという。双方向の授業できめ細かな指導ができるのはもとより、理解度に応じた個別学習も可能になることから、多様な子どもたちに個別最適化された教育を実現できるようになるからだ。グループワークでは、一人ひとりが情報を収集し、周りと共有して議論するといった、新学習指導要領で目指す主体的で対話的な深い学びが可能になる。
新型コロナの感染拡大で、教育のICT化は一気に進むのか
ICT教育によって、学びの機会の地域間格差が埋められることが期待される一方で、自治体によっては導入のスピードに違いが出て、新たな格差を生むのではという懸念もある。
「確かに、学習端末が約900万台必要であり、全国の学校に一斉に導入するのは難しい。現在は、新型コロナウイルスの感染者数が多い自治体から優先して導入を進めている段階です。これまで、どこでも同じ、平準化された最高の教育を受けられる日本の教育のすばらしさは、高く評価されてきました。しかし、端末がそろってからやる、ではいつまで経っても教育は変わりません。
多様性のある教育を実現しようとすると、100%の平等を前提としていては何もできない。できるところから始め、導入が遅れているところにはどのような対策を立てるのか。そのうえで、遅れている自治体をフォローすることも政策的に考えています。でも正直なところ、もう少しやってみないと問題点がわからないというのもある。
そういう意味では、一気に教育のICT化が進むのかといえば難しい。ちょっと進んで立ち止まるといった段階的な成長を繰り返すのではないかと考えています。何より、ICTに対応できる先生を着実に育てなければなりません。ICT教育のよさを実証し、そのよさを理解できなければ全体の流れは変わりませんから、やりきるには時間がかかると考えています」
今回、新型コロナの感染拡大を受け、教育のICT化への関心が急速に高まった反面、その機運が今後も保たれるかどうかについては懸念が残る。だが、オンライン授業のよさを多くの人が実感したという点では、教育のICT化を継続して進める大きな力となるに違いない。一人ひとりの子どもたちに寄り添った多様性のある教育を実現するためにも、「GIGAスクール構想」が担う役割は重要だ。
「社会に出て、自信を持って働ける、いろんな場で活躍できる人材を育てていきたい。国にとって大事なのは教育だといわれますが、それは同時に子どもたちにとっても大事なことなのです。教育は道具であり、その道具を利用して子どもたちは成長し、生きていく。教育とは生きていくための訓練をしているのです。今回のコロナ禍の中では、学校に行きたいと声を上げる子どもたちがたくさん見受けられました。子どもの目が生き生きと輝く、日本の学校をそうした場にしていきたいと考えています。
いい学校、いい教育は大切ですが、やはり最後は信頼できる先生がいるかどうかです。今、学校の先生になりたいという人が本当に少ない。19年公立学校教員採用選考試験の競争倍率は全体で4.2倍、小学校に至っては2.8倍と過去最低です。少なくとも3倍にしたい。優秀な先生は7倍ないと出てこないともいわれています。そのためには、先生のステータスを上げること、どう高められるかが最後の課題になってくると考えています」
(注記のない写真はiStock)