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UUUM
代表取締役社長CEO
鎌田和樹
最終的に成功する
日本を代表する動画クリエイターをマネジメント・サポートする企業であるとともに、インフルエンサーマーケティングをリードするUUUM(ウーム)。その創業者である鎌田和樹氏は、HIKAKINをはじめとする多数の著名クリエイターを抱え、2013年の創業以来、急成長を遂げている。売上高197億円、純利益8億円、従業員数382名(2019年5月期現在)。その成功の秘訣や起業家としての生き方について聞いた。
自分が言ったことは
本気でやり遂げる
――創業時から仕事において「愚直に続けている」ことは何でしょうか。
鎌田毎週月曜日に、朝から経営会議を行っていることです。朝イチから会社の数字を幹部全員で読み合わせることを創業から変わらず続けています。もともと私は数字が好きということもありますが、結局のところ、会社の健康状態を数字で見ていくとき、大切なのは継続性です。継続的に数字を見ることで、数字に強くなり、肌感覚でその意味がわかってくる。それが月イチでは理解できません。週で見なければ数字の意味を把握できないんです。
ベンチャーは一見ドラマチックで勢いがあって華やかな経営をしているように思われがちですが、実際には地味な仕事の繰り返しです。やるべきことは仕事のPDCAを地道に回すことだと考えています。
――ただ、実際にやり続けることは難しいことですね。
鎌田私の長所はどこかと聞かれれば、言ったことを本気でそのままやり遂げることだと思っています。よくビジネスでは本音と建前の使い分けが大事と言われますが、私にはそれがありません。自分が言ったことは絶対にやる。そのために仕事を毎日繰り返しています。それが自分の経営ノウハウだと思っていますし、それを6年間続けていることが経営の強さにつながっていると思います。
最初は自分の言ったことが本当にできるかどうかはわかりません。実際にはいろいろな理由があって、ほとんどできないと思うかもしれません。でも、愚直にやり続ければ、必ず成し遂げることができると思っています。
――いつから「続ける重要性」を意識するようになったんですか。
鎌田本当に「自分事」として考えるようになったのは、自分のお金で会社を始めたときからです。ベンチャーは社長の働き方が経営を大きく左右します。私は今でこそ、朝型人間のように仕事をしていますが、正直に言えば、朝は強くありませんし、もっと寝たいと思うときもあります。しかし、社長が懸命に働けば、それだけ会社の生産性は上がる。それ故、家でゆっくりしたいという気持ちにはなれません。結局、経営の責任はすべて自分にある。そう思っていつも自分を駆り立てています。
例えば、前職で会社役員をやっていた頃は、10億円で何かを買ったとき、パソコンの画面上で10億円減っても、本当の金額のリアリティを感じられなかったかもしれません。しかし、自分で会社をつくって銀行から億単位の資金を借り入れるときの緊張感はなかなかのものです。上場していないときは私個人が連帯保証人になりますから。一歩間違って何か経営上の問題が発生したときは自分が億単位の借金を背負うことになるわけです。どんなに事業が安定していても、やはりそのプレッシャーは相当なものです。
変化の激しい時代に
勝利の方程式は存在しない
――その一方で、愚直以外で成功した要因とは何でしょうか。
鎌田変化をし続けていることでしょうか。1回決めたことを絶対やり遂げると思う一方で、やってダメなら方法を変えていくことも同時に行っています。UUUMの前身であるON SALEという会社をつくったときも、当初はネット版のテレビショッピングのようなビジネスをしたいと思っていました。しかし、やり始めて3カ月でこれは駄目だと考えました。
そこで事業をクリエイターのサポートにピボット(路線変更)することにしたんです。それが結果的にうまくいった。今も事業では劇的なピボットではないにせよ、つねに細かいチューニングは続けています。
YouTuberという言葉の世間の捉え方もここ数年間で大きく変わりました。こうした変化が激しい時代においては勝利の方程式は存在しません。その時々のトレンドに合わせて、人知れず自らを変化させていくことが重要だと考えています。
――時代のタイミングを見ながら事業を切り替えていくことは口で言うのは簡単ですが、それを実行するのは難しいことだと思います。
鎌田そうでもありません。サンプル数の問題だと思います。トライ・アンド・エラーのサンプル数が少なければ1年くらいは見るでしょうが、それを短期間で経験することができれば見切ることは可能です。
前職の通信会社では本当に懸命に仕事をしましたが、その会社の1年は他の会社の10年分の価値があると感じるくらい濃密な時間を過ごしました。それと同じような感覚を今の会社を立ち上げて最初の3カ月で感じたんです。だからこそ、見切りをつけてピボットすることができました。事業のどこがユーザーに受け入れられ、どこが受け入れられなかったのか。そこを見極めたうえで、受け入れられた部分にフォーカスして、最短の方法で新たなビジネスを構築していく。それが成功の秘訣だと思います。
PDCAを繰り返せば
ビジネスは成功できる
――それでも世の中の多くの経営者は、それが実行できていないように見えます。
鎌田私はほとんどのビジネスは、最終的に成功すると思っています。何か挑戦して失敗したとすれば、その要因をきちんと分析して改善する。それをやり続けていけば、必ず成功にたどり着きます。にもかかわらず、経営者が怠慢な仕事をしていたり、変なプライドがあったりすると、どうでもいいことで失敗してしまう。仕事ではきちんと愚直にPDCAを回していけば、最後には成功するんです。少なくとも、業態にこだわらず変化を続けていけば、成功の道筋は見えてくるはずです。
ただ、成功をどう捉えるかはすべてその人の価値観です。1億円の売り上げ達成でもいいし、上場することを成功としてもいい。その意味で、誰もが何かしらの成功をできるチャンスがあると考えています。
――とはいえ、話を聞いていると、鎌田さんはかなりのハードワークの末に成功をつかんだように見えます。
鎌田20代のころはそうだったかもしれません。しかし今は睡眠時間を削って働くというよりも、考える時間を増やしています。それはガムシャラに働くだけでなく、うまく仕事をするための知恵が身に付いたからかもしれません。
もう少し言えば、UUUMが、私のハードワークがなければ回らない会社だったら、今は生き残っていないと思います。私はゼロをイチにする仕組み作り、きっかけづくりをして、あとは400名ほどの社員がそれぞれ考えて動いてくれる。当たり前ですが、社長1人の力よりも、社員がそれぞれの力を発揮したほうが会社の力は強くなりますから。
――では、これまで苦しい局面というものはありましたか。
鎌田創業から2年経った2015年ごろです。新しく始めたインフルエンサーマーケティング事業の不振が続きました。正直まずいと思いました。そこでインフルエンサーマーケティングの重要性を周知させるために東京、名古屋、大阪などでマーケティングセミナーを開催しました。小さな動画広告市場を拡大していくためには啓蒙活動しかない。でも、効果はすぐには出ない。その一方で、ベンチャーキャピタルから調達していた億単位の資金を使い切ってしまいました。しかも業績は赤字。その時がいちばん苦しかったですね。
そのため、よく計算しました。本来のコストはいくらで、一過性のコストはこれだというように、コストの内容を改めて確認し、赤字で苦しい時期でしたが、啓蒙活動のような重要な先行投資は続けました。それが結果として後に役立つことになりました。
わかりやすく言えば、しゃがんだほうがジャンプしやすいということです。実際、いちばん多くの赤字を出した翌年には黒字に転換することができましたから。
つねに会社のことを考え
会社のためになることをする
――意思決定をする際に大事にされていることは何ですか。
鎌田最近の自分の言葉で言えば、「納得できているかどうか」ということです。とくに会社の方向性を決めるような決断では、自分が納得できるまでとことん考えます。そして、方向性が決まれば、それに沿って決断をします。もし現場からいい提案があっても方向性と異なるのであれば軌道修正しますし、いかに会社を成長させるのかという方向性の下でつねに決断するようにしています。
また、会社をより客観的に見られるようになったことも大きいと思います。自分のことをひとごとのように見たり、話したりするようにしています。実際、自分で話しながら、他人の気持ちになってまるで二重人格になっているような感覚になるときがあります。プレゼンをするときも緊張とは無縁のところで、話している自分を冷静に見ている自分がいてダメ出しをするんです。会社の経営も同じように他人の目で見ているところがありますね。
――自分で経営者に向いていると思われますか。
鎌田どうでしょうね。自分ではサボりグセがあると思っているからこそ、サボらないように自分につねに仕事を課しているような感覚があります。週明け月曜の朝イチに経営会議をするのもそうでしょうし、幹部からの報告にも必ず目を通して、返信するようにしています。ふと会社のことを忘れないように、とにかく仕事で自分に隙をつくらないようにし続けています。ですから、スケジュールで空いた時間があっても、つねに何らかの仕事で埋めるようにしています。サボってしまって自分のせいで会社の生産性が下がることが許せないんです。会社のためにいいと思うことは全部やりたいし、何でもやってみたい。そうすべく自分を追い込んでいる感覚はあります。
皆のためになり
皆が喜ぶ仕事がしたい
――EOY(EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー)の2016年のチャレンジング・スピリット部門で大賞を受賞されました。3年が経ち、振り返ってどのような思いがありますか。
鎌田多くの皆さんに自分たちの会社や事業の内容を紹介できる場所を提供していただいたことは大きな意味がありました。本当に忙しい人を相手にする場合は、自分の会社のことを短い時間で相手にわかるように説明することが求められます。EOYはまさにそのような場所で、自分にとって大きな刺激になりました。賞をいただいてもいただかなくても、きちんと選考され、評価されることは「認められた」ということであり、経営者の大きな励みになります。経営者というものはつねに孤独で、褒められることも多くはありません。それがEOYという大きな大会で認められた。それ自体、仕事を続けていくうえで大きな活力を得ることにつながったと思っています。
――2017年のモナコでの世界大会(WEOY)にも参加されています。
鎌田モナコの世界大会では参加している経営者のレベルも高く、大企業の創業者も参加するなど非常に刺激になりました。世の中の事業や起業における、世界的なスケールを再認識させられました。
それと同時に、世の中にビジネスモデルは無限にあるんだとも思いました。そこで自分が間違ってなかったと思ったのは、私がクリエイターの悩みを解決しようとビジネスを始めたように、成功している会社の多くはお金儲けをするために事業を始めたわけではないということです。そこには多くの人たちの課題を解決するために立ち向かったストーリーが必ずあります。ストーリーがあるからこそ、皆の共感を呼ぶ。そんなストーリーを持った会社がEOYにはあふれていると思います。世の中をどう変えていきたいのか。それが起業家には問われていると思います。
――この連載は「起業家を応援する」という思いも込められています。起業を目指す方にメッセージをいただけますか。
鎌田起業したいと思ったら、なぜ自分は起業しないといけないのか。その理由を少なくとも100回くらい考えたほうがいいでしょう。そのうえで、今度はその理由を100回否定してみる。その結果、出てきた答えにニーズがあると判断できるなら、やるべきだと思います。エゴのある経営者のほうがメンタルも強いように見えますが、やはりニーズに支えられた経営者のほうが生き残れますから。
私もお金持ちになりたいために仕事をしているわけではありません。ただ、人の悩みや課題を聞いて、それを解決することに向いていたんだと思います。今の仕事もクリエイターの悩みを聞く中で、それを解決するために始めたものです。私のビジネスは振り返るとそこに集約されていて、皆に喜んでもらえるような仕事をしたいということに尽きるんです。その思いは今でも変わっていません。
文:國貞文隆
写真:今祥雄
取材:2019年11月6日
鎌田和樹(かまだ・かずき)
UUUM代表取締役社長CEO
1983年東京都生まれ。2003年に大手通信会社に入社。総務、店舗開発・運営、アライアンスなど多岐にわたる分野で実績を上げ、11年より系列会社の役員を務める。 その後、起業を決意。HIKAKINとの出会いを得て、2013 年ON SALEを設立し、その後UUUMに社名変更。
“世界一”を決める起業家表彰制度
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーとは?
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーは、1986年にEY(Ernst&Young=アーンスト・アンド・ヤング)により米国で創設され、新たな事業領域に挑戦する起業家の努力と功績を称えてきた。過去にはアマゾンのジェフ・ベゾスやグーグルのサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジらもエントリーしている。2001年からはモナコ公国モンテカルロで世界大会が開催されるようになり、各国の審査を勝ち抜いた起業家たちが国の代表として集結。“世界一の起業家”を目指して争うこのイベントは、英BBCや米CNNなど、海外主要メディアで取り上げられるほど注目度が高い。