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クオンタムリープ
出井伸之社長
アイモバイル
田中俊彦社長
Looop
中村創一郎社長
誰がジャイアントになるのか
今回は、クオンタムリープの出井伸之氏を中心に、ネット広告を手掛けるアイモバイル社長の田中俊彦氏、太陽光発電による電力小売事業を展開するLooop社長の中村創一郎氏を交えた鼎談をお送りする。3人の共通点はEYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー。審査員、審査員長を歴任してきた出井氏と同大会の出場者という田中氏、中村氏。3人が感じている日本のベンチャーの現状、将来の可能性とは。
再生可能エネルギーは
ITでさらなる効率化が図れる
――今年3月、Looopはアイモバイル等に対し第三者割当増資を実施し約4億円を調達、両社は資本業務提携しました。Looopは、アイモバイルのネット広告事業のノウハウを生かし、電力小売事業のさらなる顧客獲得を目指す方針だそうですが、ネット広告と電力小売事業という、一見畑違いの会社同士がなぜ提携したのでしょうか。
中村最初のきっかけは、昨年10月ごろに一緒に焼き鳥店に行ったときのことです。当時、Looopはたくさんの課題を抱えており、中でも大きな課題は、顧客は増えている状況なのに、金融機関から借り入れをしながら会社を回していることでした。
当社は電力自由化が始まってから、1年で約4万件の顧客を獲得できたんですが、まだまだスタート段階。やはり顧客数を100万、200万にしていきたい。1年目はアイデア勝負が奏功し、「基本料金0円」でスタートダッシュができました。しかし、2年目以降はそう簡単にはいきません。インターネット広告も含めた全体的なブランディング施策をとっていかなければならない。
そういう状況の中、焼き鳥店で何気なく田中社長に相談したんです。それがきっかけでした。その後、田中社長から「Looopへの出資に興味がある」と言われ、話がトントン拍子に進んでいきました。
出井伸之(いでい・のぶゆき)
クオンタムリープ代表取締役ファウンダー&CEO
1937年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、ソニー入社。外国部、オーディオ事業部長、取締役などを経て、1995年社長就任。2000年会長兼CEO就任。内閣官房IT戦略会議議長、経団連副会長、ゼネラルモーターズ、ネスレの社外取締役なども務めた。06年クオンタムリープを設立。代表取締役 ファウンダー&CEO就任。2016年のEYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー日本大会審査委員長。
田中もともと私自身が再生可能エネルギーに興味があったことも大きいと思います。実は、自分たちも小規模の太陽光発電をやってみたんですが、これを大規模にやるのは困難だと感じていました。私たちの本業はネット広告屋なので、事業シナジーを生むやり方でなければ、太陽光発電に注力するわけにはいきません。
その一方で、Looopは電力小売りの自由化によって、1年間で約4万人の顧客を獲得されていました。当社としては、Looopをクライアントとして、Looopに集まっているユーザーに私たちの広告を見てもらうことで、電気代を安くできるような仕組みをつくれるのではないかと考えました。
出井ヨーロッパの事例を見ていると、インターネットによる配信と電力の配信は似ているように見えますね。特にドイツは盛んです。ITを駆使して制御することによって、効率よく電力を送ることができるからです。将来的には日本でもITと電力を組み合わせれば、もっと効率化できるんじゃないですか。
中村自然エネルギーを制御するというのは、電力供給においては重要なファクターです。そもそも再生可能エネルギーには昼しか発電しないとか、不安定だとか、さまざまな課題があります。そんな問題点に対して、AIを使って、日照量や風など天候を予測したり、人が使う電気の使用量を予測したりする。そうした組み合わせがこれから重要になってくると考えられています。ITを組み合わせることで、再生可能エネルギーの弱点をカバーできるんです。それにこれからはソフトだけでなく、蓄電池といったハードの部分にもITが必要になってきます。
「第二の隕石」のタイミングで
プレミアムカンパニーを
田中それにしてもLooopの売り上げは、すごく伸びていますよね。
中村2015年度が115億円で、16年度が233億円。今期は400億円を想定しています。課金モデルなので、どんどん積み上がっていくビジネスです。だからこそ、インターネット広告を駆使して、優良ユーザーを囲い込みたい。それは今しかできないことです。その意味でも、今回の出資は大きな分岐点ですし、チャンスだと思っています。
――こうしたベンチャー同士の資本提携は盛んなのでしょうか。
出井上場するくらいのサイズになってくると、買いたいとか、連結対象の子会社にしたいといったリクエストはあるのかもしれませんが、今回のような関係性は珍しいでしょう。
田中私は、ほかにも京大発の電気自動車ベンチャーであるGLMにも出資しています。異業種ですし、資本関係があったほうが深く話せるからです。まだ当社が未上場会社のときだったので、自由に出資できたこともあります。
田中俊彦(たなか・としひこ)
アイモバイル社長
1979年京都生まれ。国立舞鶴工業高等専門学校卒業後、情報通信系企業、広告代理店での勤務を経て、2007年にアイモバイルを設立し代表取締役に就任。モバイルに特化したインターネット広告事業を展開し、独自の広告配信システム「i-mobile」を開発。2016年に東証マザーズに上場。2014年のEYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー日本大会に出場。
――ビッグデータやIoT、第4次産業革命といったキーワードが盛んに取り上げられるようになっていますが、ベンチャーもそれに関連した動きは出ているのでしょうか。
出井私は、インターネットが第一の隕石となって、これまでの大会社が破壊されて新しい会社ができると前々から言ってきましたが、そろそろ第二の隕石が落ちてくるだろうと思っています。AI、IoTもそうだろうけれど、それは単に技術の言葉ではなく、第二の隕石とは「新しいビジネスモデル」ができることなんですね。
たとえば、私がジェフ・ベゾスに初めて会ったのは1997年ですが、そのときAmazonのビジネスモデルは絶対にイケると思いました。でも、そうしたことは、実際に大きくなるまで誰もわからない。当時グーグルはまだ創業さえしていなかった。これから世の中を席巻していくのはAOLだろう、と見られていた時代ですから。
アメリカではITの発展とともにとんでもないことが起こってきましたが、日本ではずっととんでもないことが起こっていません。だから、私が今、ベンチャーの人に期待を持っているのは、とんでもないことをやってほしいということです。日本では、IT分野でアメリカや中国のように、プレミアムカンパニーになった会社があまりにも少ない。
ですから、第二の隕石が落ちるときの、次の変化のチャンスを生かしてほしい。今は、みんなが一斉に横並びの状態だと思いますね。今のジャイアントがそのまま生き残るとは限らない。今の新しい人たちの中から、すごい会社が出てくればいいなと思っています。
メガバンクさえ変わる
次のビジネスモデルを探すべき
中村私も世の中が変わりつつある空気を、すごく感じています。電気は昔から使われているものですが、これからさらに電気の革命が起こるのではないか。それはクルマのエネルギーが化石燃料から電気に代わることで、2020年代に本格化すると考えています。
実は私は、電動バイクの会社にも出資しているんですが、その会社は日本のマーケットはもちろん、ベトナムやフィリピン、タイ、マレーシア、インドネシアでの展開を目指しています。実際、それらの地域では電動バイクが一般的になろうとしています。これからは移動を電気に頼る時代になってくると思います。
田中19世紀の産業革命、20世紀の情報革命ときて、今はIoT、AI、ビッグデータ、フィンテック、再生可能エネルギーとさまざまな分野で革命が勃発する大革命時代に入っていると思います。その意味で、あらゆる業界でチャンスが出てくるはずです。
当社は、その中心でビジネスをするというよりも、そのサポートをする形になるかと思いますが、今回のように再生可能エネルギーの普及も含めて、新しいビジネスを広告を使ってサポートしていきたいと思っています。
――大企業との提携をテコに成長するベンチャーの事例もあります。現在、大企業とベンチャーの関係性はいかがでしょうか。
中村ポジティブな印象を持っていただいています。ただ、私が感じるのは、そのスピード感があまりにも遅いということです。判断するスピードも遅いし、評価に関しても現在のキャッシュフローを見ることしかしません。
中村創一郎(なかむら・そういちろう)
Looop社長
1978年京都生まれ。北京語言大学在学中にネットビジネスを始める。2002年北京康茂商務諮詢服務有限公司に入社し、日系企業向けにコンサルティング業務に従事。11年4月、東日本大震災被災地への太陽光発電所の設置を契機に日本での起業を決意し、Looopを設立し、代表取締役社長に就任。父はアドバンストマテリアルジャパンの中村繁夫社長。2014年のEYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー日本大会に出場。
出井日本には財界があるけど、シリコンバレーはない。アメリカでインターネットという新産業がグーグルをつくってそれまでの巨人たちを倒してしまったように、日本でも財界が崩れることもあるんじゃないかと思っています。
次の時代は、地域の巨大な独占体がなくなっていく。通信環境が5Gになり、映像も8Kになる中で、AIやブロックチェーンが組み合わさっていけば、嫌でもビジネスモデルは変わってくるはずです。
アップルやAmazon、アリババが今の優位性を保っていけば、将来的には大きな決済サービスの会社になっているかもしれない。そうすると、メガバンクも変わらざるを得ない。これから3年くらい経ってくると、いろんな変化が出てくるでしょう。
だからこそ、あらゆる産業において、次のビジネスモデルを考えたほうがいい。日本に住んでいると、日本が遅れているのがわからない。海外は遠いと言うけれど、ネットがあるんだから距離なんて関係ない。あるコンサルティング会社の調査によれば、この10年間、クロスボーダーのモノの動きは2.5倍しか伸びていないけれど、データの動きは45倍も伸びているといいます。つまり、データの伸びによって、海外との距離は縮まっているんです。
中村私は太陽光発電の設置場所を探すために、よく海外に行きます。日本ではチャンスがどんどん減っているからです。日本で再生可能エネルギーを広げたいという思いがある一方で、日本ではルールが多過ぎてプロジェクトが進まないんです。
今、アフリカやインドでもプロジェクトを進めていますが、海外のほうがやっぱり早いんです。今なら、インドで発電所をつくろうとすれば、クラウドファンディングを使って、資金を集めることもできますよ。
出井それは、“新しいグローバル”と言えるだろうね。昔は、海外商船やソニーやホンダのようなメーカーがモノを動かして、それをグローバルと言ったけど、今はぜんぜん違うグローバルになっている。発電と金融が一緒になって、アフリカやインドに行くっていうのは面白いね。
中村インドネシアにもプロジェクトがあるんですが、現地の人がいざ発電所をつくろうとしても、お金が集まらないんです。銀行から借り入れしようとすれば、10%という高金利で資金調達しなければなりません。でも、いまの日本の資金調達コストは低い。だから飛びついてくるんです。出資して発電所をつくれば、利益を含めたさまざまな効果が生み出される。それを私たちは日本に還元していきたいと考えています。
田中これからはいろんな場面でITが絡んでいかないと、既存産業も衰退の一途だと思いますね。逆に言えば、ITを絡めれば、どんどん伸びる企業が出てくると思います。
インターネットでビジネスは
指数関数的に伸びていく
――EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(以下、EOY)はアントレプレナーにとって、どんな存在でしょうか。また、どのように活用すればいいとお考えでしょうか。
田中EOYのように自分たちをプレゼンして評価していただける場というのは、国内にほとんどありません。また、出井さんのような方と知り合うチャンスもそう多くはありません。緊張もしましたが、EOYのような大きな舞台に立てたことで、成長の機会を得ることもできましたし、自分と近い同年代の経営者と知り合うこともできた。
それこそ今回の異業種のコラボレーションなんて、なかなかできることではありません。同業界の方であれば会うことは容易ですが、異業種の方とはなかなかお会いできません。そういった意味で、EOYはさまざまな点で活用できると思います。
中村EOYの良いところは、ファイナリストに非常にクオリティの高いアントレプレナーが集まっていることです。実際、過去のファイナリストを見ても、上場したり、有名になったりしたアントレプレナーも少なくありません。過去のメンバーたちは錚々たるもので、同年代でも、すごい人たちがいることを知る良いきっかけになりました。
ちなみに私は2014年にEOY日本大会でルクセンブルクのインキュベーションセンターを利用できる権利を得ましたが、実際に派遣した社員が半年間ほどの滞在で、めちゃくちゃビジネスができるヤツに変身しているんです。
ヨーロッパには知とカネが集まっているから、現地のアントレプレナーたちと過ごすことで、どんどんアイデアも生まれるし、新しい人脈も紹介してくれる。そんな思いがけないメリットもありました。
出井私はソニーに入社したのは1960年、まだソニーがベンチャーのときです。今の大企業であるソニーと違って、当時は売り上げが100億円あるかないかです。それが2005年に私がソニーを辞めたときには、8兆円の会社になっていた。ソニーで私が経験したのは、成長にはカネが必要ということです。
インターネット時代と、これまでのモノづくり日本と違うのは、インターネット時代は直線ではないということです。ビジネスは指数関数的に伸びていく。その感覚をまだ日本人は持っていません。インターネットには自動的に広がっていくという効果があります。その指数関数的なものこそ、爆発的な成長につながります。アントレプレナーももちろんですが、政府も大企業も法律も、いろんなものが変わっていかなければ、世界を舞台に戦えないと思っています。
文:國貞文隆
写真:今祥雄
取材:2017年4月6日
“世界一”を決める起業家表彰制度
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーとは?
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーは、1986年にEY(Ernst&Young=アーンスト・アンド・ヤング)により米国で創設され、新たな事業領域に挑戦する起業家の努力と功績を称えてきた。過去にはアマゾンのジェフ・ベゾスやグーグルのサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジらもエントリーしている。2001年からはモナコ公国モンテカルロで世界大会が開催されるようになり、各国の審査を勝ち抜いた起業家たちが国の代表として集結。“世界一の起業家”を目指して争うこのイベントは、英BBCや米CNNなど、海外主要メディアで取り上げられるほど注目度が高い。