アビガンに期待する人が押さえておきたい裏側 奇形児発生の副作用、投与なら早めに慎重に

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新型コロナ感染症の治療薬候補として世界各国の注目を集める「アビガン」(写真:富士フイルム)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で蔓延するなか、富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」が注目を浴びている。安倍晋三首相が記者会見で名指ししてアピールした薬剤で、新型コロナウイルスへの治療薬として期待が高まっている。だが開発の経緯を子細にたどると、実際の治療で使われるためには、越えなければならない高いハードルがある。

菅官房長官は4月3日の記者会見で、アビガンを希望する各国に無償提供する方針を明らかにした。現時点で約30カ国から提供要請があるという。

アビガンが注目されたきっかけは、実際に新型コロナに感染した患者に使用した中国の試験で、効果がみられたからだ。新型コロナウイルスの発生源とされる武漢市の武漢大学中南病院では、患者を「アビガン(中国では後発品のファビピラビル)」を投与したグループ(116人)と、ウイルスの侵入を阻害する薬剤である「アルビドールを投与したグループ(120人)の2つに分け、効果を比較した。その結果、回復率はアビガン投与群が「71.4%」、アルビドール投与群は「55.9%」と差がみられた。

さらに、深圳第三人民病院では、アビガンを投与したグループ(35人)と、新型コロナにも効き目があるとみられている抗HIV薬の「カレトラ」を投与したグループ(45人)に分けて比較したところ、新型コロナウイルスが消失した期間は、アビガン投与群が「4日」、カレトラ群「11日」だった。胸部画像による改善率では、アビガン群「91.4%」、カレトラ群「62.2%」と、アビガンが効果を示した。

2つの試験は3月に論文として公表されたが、後者は今月に入って取り下げられたことがわかっている。その理由は不明だ。

効果が確認されればコロナ治療薬になりうる

いまだ有望な治療薬もワクチンも見つかっていないなかで、もし効果が確認されれば、貴重な薬剤となる。日本でも臨床試験が始まったが、中国でもさらなる臨床試験が行われている。

安倍首相は2月29日の記者会見で、「アビガンを含む3つの薬について、新型コロナウイルスに有効性があるかどうかを見極めるため、観察研究としての患者への投与をすでにスタートしている」と述べ、3月28日の記者会見では国産であることをアピールするかのように「アビガンは海外の多くの国から関心が寄せられ、臨床研究を拡大するとともに、増産をスタートする」と語った。

ここで、アビガンの開発にさかのぼってみよう。

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