告知には「連勤ばかりでブラックですが訴えないでください」という冗談まで添えられていた(なお、この有給は今はなくなっている)。
ここで重要になるのが、前述した「平均客単価2540円」だ。この金額感なら、その居場所に週に何度でも通うこともできる。スタッフに聞くと、大黒にはお通しもない。立ち飲みなら席料もかからず、座り席でも1人88円だ。
ファン化は大黒だけの専売特許ではないが…「同じ客の来店回数」に違い
もっとも、接客や会員制度で常連をつくろうとしている居酒屋チェーンは、ほかにもある。
地鶏居酒屋の「塚田農場」は、来店回数に応じて客が「主任」「課長」「部長」と昇進していく名刺制度で知られている。来店を「出勤」に見立てていたのも、大黒と同じだ。ただ、運営するエー・ピーホールディングスは2024年4月、約15年続けたこの名刺制度を卒業すると発表した。現在は、アプリ上で地鶏を育てながら産地や生産者とのつながりを感じてもらう仕組みに移行している。
一家ホールディングスが展開する「屋台屋 博多劇場」も、アプリ会員を軸にリピーターを増やしている。入会金200円でアプリ会員になると、来店スタンプ2個でお通しが一生無料になるなど、来店を重ねるほど得をする仕組みだ。実際、リピート率と来店頻度の高さが、この会社の強みである。
このように、他社もファン化に力を入れている。では、大黒は何が違うのか。新しい客を増やすだけでなく、同じ客に何度来てもらうかを徹底して考えていることだ。
大須観音店で筆者の顔を覚えていたスタッフとは、もともと名古屋駅の店で会っていた。店が変わっても、スタッフと客の関係は続く。ここに大黒の戦略の肝がある。大谷社長は、投資家向けの説明会で印象的な例を挙げている。常連客のお気に入りのスタッフが、近くの別の店の店長に就任したと知る。常連客はお祝いを言いにその店へ行き、また元の店に戻って「あいつ頑張ってたよ」と話す。これだけで、1人の客がその日に3回来店したことになるという。


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