話を戻そう。財務省が2012年11月に公表した資料には、国家公務員宿舎の削減計画に基づく個別検討の結果がまとめられている。廃止が決まった5046住宅の中に「千駄ヶ谷住宅」の名前があった。ちなみに、一覧には「千駄ヶ谷住宅(一部)」と載っていた。注記によると、「(一部)」は、複数の棟からなる宿舎のうち、一部の棟だけを廃止する宿舎を指すらしい。
場所の姿が具体的に出てくるのは、2023年6月14日の渋谷区議会の委員会の会議録だ。この日の委員会では、千駄ヶ谷住宅跡地の利活用を求める請願が取り上げられていた。請願の紹介議員の説明によれば、細い区道を挟んで左右に3棟ずつ、計6棟の宿舎が並んでいた。議員らは、この一帯を「代々木2・3丁目公務員住宅跡地」と呼んでいたという。
議員は、こう述べている。
「この公務員住宅が2015年の9月に閉鎖されることが決まっておりましたので(中略)閉鎖されてもう8年もたっていますから、廃墟と化した住宅の放置を一刻も早くやめさせてほしい」
それからおよそ11年。この国有地は活用されることも、売却されることもなく、ただ囲われたまま時を止めていたのだ。
「時価売却」の答申から破談、そして定期借地へ
だが、この11年の間にも様々な手続きが動いていた。会議録によると、2015年10月、区議会は全議員一致で、跡地を渋谷区に払い下げるよう国に求める請願を採択した。議員は、この取得を「当時の渋谷区議会議員全員の悲願」だったと発言している。
取得後は、区民住宅や認可保育園、特別養護老人ホームなどを含む複合施設を整備する構想もあった。当時の渋谷区には、こうした施設が足りていなかったのだろう。その後の2019年10月、国有財産関東地方審議会は、渋谷区への時価売払いについて答申した。
ところが翌2020年2月、国と区の見積もり合わせは不調に終わった。国の審議会の資料によると、国の予定価格に達せず、契約に至らなかったためだ。要するに、国が見込んだ売却額に、区の見積額が届かなかったのだ。同年9月、国はこの土地を留保財産とした。売却せず、国が所有権を持ったまま将来の活用を検討する土地として残した、ということだ。
2022年1月、地域の住民らによる「南新宿まちづくり検討会」(2013年発足)が、利活用と速やかな解体を求める要望書を区長に提出。議員によると、それでも動きがなかったため、2023年6月、検討会は区議会に「国有地(国家公務員宿舎千駄ヶ谷住宅跡地)の利活用促進を求める請願」を出した。請願内容は、建物を早く解体すること、利用方針を早く検討すること、検討にあたって地域住民の声を直接聞くことの3点。


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