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転職も休職も学び直しも「自由に選べる時代」なのに、なぜ迷うのか… 哲学者が語る「自由になった社会人」の苦しさ

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左から嶋浩一郎氏、谷川嘉浩氏
左から嶋浩一郎氏、谷川嘉浩氏(写真:木村華子)
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谷川:これはもちろん皮肉で、疎外された人間がそのことに疑問を持たずにいる状態を指しています。同じことを、『愛するということ』(紀伊国屋書店)で知られるエーリッヒ・フロムは、「自動人形(オートマトン)」と言っています。主体的に生きているつもりでも、実際には個性や自由を放棄している自動機械だと。良くも悪くも、会社や組織が与えてくれるアイデンティティや生き方と、個々の人間が生きたい人生の間にはズレがある。

ミルズやフロムの大衆社会論と現代が違うとすれば、個々人も、会社もまたこのズレを尊重されるべき前提としていることです。そして、その隙間が広がりそうになったら、会社は働き方の調整や制度でサポートするし、個人は休職や転職、学び直しなどを選ぶことが普通になっています。個別には色々あると思うけど、少なくとも社会の趨勢はそうなっています。

そして、こうした状況では、誰も自分を「ロボット」扱いしてくれない。個別具体的な事情を抱え、自分で決断することができる存在として扱われるからです。言い換えると、自分がどう生きるべきなのかを悩む存在であること——つまり「人間」であること——が求められる。私たちは社会人として、疑問を持たない「陽気なロボット」や「自動人形」ではいられず、「迷子」であることを受け入れるしかないという認識が、本書(『迷子になった「社会人」のための哲学の時間』)の前提にはあります。

(写真:木村華子)

今やっているゲームの前提を問い直す

谷川:嶋さんは、20~30代の若手社員の頃に、「迷子」だった経験はありますか?

嶋:当時はとにかく、広告や、キャンペーンの作り方は今の時代に合っているのかな、ということをずっと疑問に思っていましたね。一度うまくいった手法って、どんどん公式化されていくじゃないですか。その模倣を繰り返すことに進化はないよなと感じていました。もちろんそれは、今も絶えず考えなきゃいけないことですが。広告がいつも同じシチュエーションの中で実行されるわけじゃないですからね。

谷川:毎回仕事の仕方を編み直していたわけですね。自分の仕事の前提を問い直している。

嶋:何かのゲームをやるときに、決められたルールの中で点数の入れ方があって、それを覚えてどんどん点数を稼げるようになる、すると評価されるという世界がありますよね。もちろん、点数を入れる技術を磨くための反復練習も大事ですが、インターネットというテクノロジーが普及していく世界の中で、ゲームのルールは変わっていくんじゃないかと20代のときに感じていました。

谷川:与えられたゲームとは別のゲームをはじめると。自分でそれを求める感覚と、会社員として課されるあり方を、どう折り合わせていったんですか?

嶋:当時のクリエイティブの役員が「お前は会社作った方がいい」と言ってくれたんですよ。社内起業だったり、勝手に別のルールの競技をはじめるような動き方は、ここ20年くらいで増えてきましたけど、僕の場合は会社を作らせてくれて、大実験させてくれた。

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