INDEX
キシリア 「ソリウムには限りません。連邦には貴重な資源を1グラムたりとも渡してはならないのです。それがこの戦いを勝利に導き、ひいてはその後の支配の確立にもつながるわけだ」
キシリア 「人員と機材は望み通り与えましょう」
『機動戦士ガンダム』に出てくるソリウム=トリウム
これは1979年に放送されたアニメ作品『機動戦士ガンダム』に出てくるセリフだ。ガンダムの物語の中で「ソリウム」という言葉が出てくるのは、わずかにこの1カ所だけだ。
話中では「ソリウム」と発音しているが、トリウムのことである。ソリウムは英語のThoriumの発音に近い。『機動戦士ガンダム』第18話に、ウズベキスタンのタシケント近郊を舞台にした資源採掘現場の様子が描かれている。
宇宙に拠点を置くジオン公国軍側の軍人でこの地の責任者を務めるマ・クベが、月に置かれた基地からここを視察に来た上官であるキシリアに対して資源採掘状況を報告するやりとりが描かれている。わずか数行のやり取りだが、ソリウム=トリウムが戦局を左右する重要な資源となっていることがわかる。
物語の中でトリウムがどのように使われていたかは描かれていないが、溶融塩炉で発電に使われていたのかもしれない。(なお、トンあたり2グラムだと2ppmなので、現実の視点で見れば資源的には非常に希薄だ。例えば『機動戦士ガンダム』の中で、スペースコロニーを超巨大質量爆弾として地球や月に投下する攻撃「コロニー落とし」が行われたオーストラリアにあるマウントウェルドは、平均して660ppmだ。この含有率は劇中の脚色と受け止めよう)。
このような資源争奪のストーリーにトリウムをちりばめている背景には、当時の世相がある。1970年代はまだ世界でも原子力の平和利用は始まったばかりであり、日本では70年の大阪万博に日本原電(日本原子力発電株式会社)の敦賀原子力発電所から送られた電気で「初めて原子の火がともった」時代だ。
このころは、将来の本格的な原子力発電のあり方については幅広く議論されており、燃料としてトリウムを用いることも検討されていた。
当時の経団連(現在の日本経済団体連合会)会長の土光敏夫(1896~1988年、在任期間74~80年)氏などがトリウム学術委員会などを通してトリウム溶融塩炉による新しいエネルギー政策を打ち出している時期でもあり、ガンダムの作者である富野由悠季氏は触発されていたという。
この記事は会員限定です
残り 4982文字

