八甲田雪中行軍遭難事件は、明治35(1902)年に日本陸軍の歩兵連隊が、八甲田山の雪中行軍の途中で遭難し、210名中199名が死亡したという、世界最大の山岳遭難事故だ。ギネス世界記録に「史上最悪の登山災害」として登録されている「レーニン峰雪崩」の死亡者は43名で、それよりも死亡者の数がはるかに多い。
新聞記者だった小笠原孤酒が事件を詳細に調べ、その小笠原から資料提供や現地案内を受けた新田次郎が71年に『八甲田山死の彷徨』という小説を執筆した。その小説をもとに77年に映画『八甲田山』が作られた。橋本忍脚本、森谷司郎監督で、高倉健と北大路欣也が主演。大ヒットして、北大路のセリフ「天はわれわれを見放した」は当時の流行語になった。
私は映画がテレビで放送されたときに見たが、雪山の恐ろしさに震え上がった。さらに恐ろしかったのが、山田少佐だ。史上最低気温が記録されるほどの寒波に見舞われる不運があったとはいえ、もし山田少佐がいなければ、ここまでの多数の死亡者は出なかっただろう。軍隊のように上下関係に縛られている組織では、地位の高いひとりの人間の傲慢のせいで、全体が死地に追い込まれてしまう。
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