精神的に追い込まれた状態を、バイタルアプリや準備度が実際に感知して反映することはあるのか。そう重ねると、答えたのはBolton氏で、その言い回しは明確に慎重だった。可能性はある、という。夜間はRecovery HRVや睡眠など多くの要素を見ており、身体的であれ精神的であれ体に負荷がかかっていれば、それが数値に表れることはあり得る。
ただし、見ているのは活動量の低下や心拍の変化といった限られた要素であり、ストレスとの関連はあり得るとしても、確実に検知できると断言はできない。あくまで可能性がある、というレベルだ、と同氏は言った。
筆者の受け止めとしては、この慎重さこそが今回の取材で最も印象に残った部分だった。健康機能は誇張が最も危険な領域であり、「ストレスを検知します」と言い切れば売りやすい。それを言わずに「可能性がある」に留めたのは、技術への過信を避ける姿勢の表れだと感じた。断定の強さは、そのまま各社の性格の違いにもなっている。WHOOPのRecovery Scoreのように、飲酒や強いストレスがあった日は数字が下がりやすいと利用者の間で語られるサービスもある。
文化差についても聞いた。Appleが心拍と活動の研究基盤としているHeart and Movement Studyはアメリカ国内の研究であり、睡眠時間、通勤、労働時間、飲酒文化は国ごとに大きく違う。Dooley氏は、同研究が年齢や性別などについて幅広い層をカバーしていると説明したうえで、機能開発に際してはその研究だけでなく世界中の既存の学術文献も参照していると述べた。これらの機能は世界中の人々のためのものだと認識し、そのように開発している、という言い方だった。
日本は先進国の中でも睡眠時間が特に短く、休養や労働への価値観がアメリカとは大きく異なる。睡眠を削って頑張る文化圏への配慮はあったのか、と踏み込むと、Dooley氏は睡眠スコアの設計根拠を挙げた。
睡眠時間、規則性、中断についての最新の臨床ガイダンスに基づいており、それは世界共通のガイドラインである。十分な睡眠を取ること、日中に体を動かすこと、バイタルを良好に保つことは誰にとっても重要だ、と同氏は言う。準備度が低ければ無理をしない、その要因が睡眠にあるならそこに向き合う。その材料になれば、というのが答えだった。
Bolton氏の補足は、日本の読者にとって重要な含意を持つ。睡眠についても「その人自身の平常値」に対して評価はするが、仮に常に睡眠が少ない人がいて、それが本人の平常値になっていたとしても、準備度は絶対量としての睡眠不足も考慮する。つまり「その人の普段の傾向」と「客観的に見て適切な水準かどうか」の両方を見ているという。慢性的な睡眠不足を「平常運転」として追認しない設計になっている、ということだ。短い睡眠が当たり前になっている人ほど、意義が出る。
他社の「回復スコア」と何が違うのか
回復や準備の度合いを1つの数字で示すという発想は、すでに各社が採用している。GoogleはFitbitとPixel Watchで準備度スコアを、SamsungはGalaxy WatchとGalaxy RingでEnergy Scoreを提供し、GarminにはBody Battery、WHOOPにはRecovery Scoreがある。名称も点数の付け方もばらばらだが、「今日どれくらい動けるか」を手元で示そうとしている点は共通している。


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