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11時前。熱海駅の改札を出た観光客の多くは、海へと続く下り坂を目指して歩いていく。ところが、その流れに逆らうように駅の反対側へ回り、ガードをくぐって急坂を登っていく人たちがいる。上りきった先の、静かな高台の別荘地。そこに突如、謎の行列が現れる。多いときは50人以上。若いカップルもいれば、3世代で訪れる家族連れもいる。
8台しか止められない駐車場はすでに満車で、あふれた車をコインパーキングに誘導している50代くらいの男性がいる。黒いズボンに白いシャツ、えんじ色のベスト。ネームプレートには“マスターです”の文字……。
かつてダイビングショップだったと記憶している建物は、今は赤と黄色の庇のテントが目を引くポップな雰囲気の2階建てに変わっていた。看板には『展望レトロ喫茶 桃山館』と記されている。
聞けば、入場料は無料だという。筆者は熱海と都内の2拠点生活をしているが、この施設を全く知らなかった。観光地・熱海で、わざわざ急坂を登ってまで人が押し寄せる“入場無料”のスポット? どう考えても、うまい話には裏がありそうだ。
聞こえてきたのは80年代アイドル…“昭和後半〜平成”を切り取って
渚のバルコニーで待ってて~ ラーベンダーの
夜明け~の海が見たいの~ そして秘密……
(『渚のバルコニー』作詞:松本隆/作曲:呉田軽穂<松任谷由実>)
館内に入ると、耳に飛び込んできたのは80年代アイドルの曲だった。どれも一度は聞いたことがあるものばかりで、自然と口ずさんでしまう。同時に目に入ってきたのが「川﨑たばこ店」の看板と赤い電話機。まるで昭和の時代にタイムトリップする入り口だ。


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