1人で高速道路を走るように仕事をしていると、たしかに速く前へ進めます。でも、速く走るほど、窓の外の景色は流れていく。途中で誰が何を感じていたのか、自分がなぜそこへ向かっていたのかも、見えにくくなります。
私が作りたいのは、速く遠くへ進む仕事ではなく、誰かの記憶に深く残る仕事です。誰かと立ち止まり、違う目で見直し、何度も煮込んでいく。その時間があるから、作品の中に人の温度が残るのだと思います。
その仕事は、速さだけでは生まれません。違う目で見直し、何度も煮込む。その遠回りの中で、ようやく作品は人の心に残る深さを持つのだと思います。
チキン南蛮の日を忘れない
ある日のお昼、社員の2人が急にキッチンで料理を始めました。チキン南蛮です。ツヤのある鶏肉に卵、タルタルソース。5人分の白いごはん。みんなで机を囲んで、「いただきます」と食べる食事。そのチキン南蛮が、予想以上においしかったのです。
外銀に勤めていたころ、六本木の高級ステーキ屋で何万円もする肉を食べたことがあります。もちろんおいしかったのですが、その夜のことは、ほとんど覚えていません。
チキン南蛮の日は、今でも覚えています。でも、おいしかったのは、料理の味だけではありませんでした。
2人が笑いながらキッチンに立ち、みんながどうでもいい話をしながら食べていました。その空気ごと、おいしかったのです。いい場所だな、と。

