ミャンマーに通ううちに、大舘さんはこの国そのものを好きになっていきました。
「一年中暖かい。人が穏やか。そして仏教国だからか、どこか心が落ち着くんです」
独身だったこともあり、「それならミャンマーで暮らそう」と、自然に思うようになりました。
日本には兄弟がいましたが、それぞれ家族を持っていました。しかし、独身だった大舘さんにとって、ミャンマーには家族のように慕ってくれる元従業員たちがいました。
「もう日本に残る理由が、あまりなくなっていました」
ミャンマーを終の棲家に
そうして大舘さんは日本の店を売却し、17年に日本を離れてミャンマーへ移住しました。
ミャンマーでの暮らしは穏やかでした。しかし、その日常は21年2月の軍事クーデターによって一変します。店から日本人客の姿はほとんど消えました。輸入食材は思うように届かず、地元で入手できる食材価格も次々と上昇しました。店の経営は、それまでとはまったく違うものになりました。
クーデター以降、ミャンマーの通貨チャットは大幅に下落し、その価値はピーク時の約3分の1まで落ち込みました。これに伴い、高いインフレが続き、商品やサービスの価格は5年前と比べて約3倍に上昇しています。野菜などの食材費もクーデター前の約3倍に達し、飲食店の経営環境は一段と厳しさを増しています。
こうした厳しい経営環境の中でも、「角 ホーン」は長年通い続けてくれる常連客を大切にしたいという思いから、料理の価格を大幅に引き上げることなく営業を続けてきました。
クーデター以降、多くの企業が事業縮小や人員削減を余儀なくされました。しかし、「角 ホーン」では従業員を1人も解雇することなく営業を続けてきました。現在も約20名のスタッフを雇用し続けています。
大舘さんとティダさんが店を閉めない理由は明確で二人とも一致しています。
「利益のためではありません。従業員の生活を守るためです」

