大舘さんは続けます。
「日本で40年以上商売をしてきました。その蓄えがあるから続けられるんです。店を続けることで守れる生活がある。それが今の私にできることです。私はミャンマーを終の棲家と考えています。親族に何かあれば別ですが、それ以外で日本へ帰ることはないと思います」
現在の店舗は、ティダさんの持ち家です。店の近くにも、ティダさんの兄弟がいくつか物件を所有しています。
利益ではなく従業員の生活を守るため
「正直、働かなくても家賃収入があります。友人からは『どうしてそこまでして店を続けるのか』と不思議がられることもあります」
ティダさんはそう話します。
「でも、この店は、私が日本のお父さんのように慕うマスター、大舘さんの店です。そして、ここで働く従業員はもちろん、その家族も私たちの家族なんです。私には夫はいますが、マスターと同じで子どもはいません。だから、従業員たちは私にとって家族のような存在です」
大舘さんは現在、新型コロナウイルス感染症の後遺症に加え、交通事故による骨折や心臓の病も抱え、以前のような生活は難しくなっています。それでも、従業員たちが日々の生活を支えています。
「もしマスターがこの世からいなくなっても、お金が続く限り、この店は続けていきたいと思っています。私もマスターもこの世からいなくなった後のことは、正直わかりませんけどね」
ティダさんは、そう言って笑いました。
大舘さんの人生を振り返ると、その転機にはいつも「人との縁」がありました。童門冬二氏との出会い。ティダさんをはじめとするミャンマー人従業員たちとの出会い。そして、ヤンゴンで店を支えてくれる従業員たちとの出会い。
事業を大きくすることより、人との縁を大切にすること。利益を追うことより、従業員の暮らしを守ること。
「結局、人との縁ですよ」
大舘さんのその一言には、自身の人生、ティダさんの人生、そして「角 ホーン」の歩みがにじんでいました。
ヤンゴンの静かな住宅街で、今日も「角 ホーン」の明かりが灯っています。国境を越えて育まれた「人との縁」は、この店で今日も、変わらず受け継がれています。

