8%が一転、20%に。まったくの想定外でしたが、ともかく還元率は決まりました。やれやれ……といったん心を落ち着かせようとした私は、急にハッと我に返ります。もう1つ、解決すべき問題が残されていました。
孫さんの足がぴたりと止まる。そして…
キャンペーンの総額の上限が決まっていなかったのです。キャップをかけないと青天井で資金が流れていき、吹けば飛ぶようなベンチャーの米びつは一瞬で枯渇してしまいます。
会議が終わり、次のアポイント先へと足早に向かう孫さんを、私はあわてて追いかけました。孫さん一行に追いつくと、エレベーターホールへと続く廊下を並んで歩きながら「孫さん、もう1つだけよろしいですか」とお伺いを立てました。
「予算の上限ですが、とりあえず100億円でどうでしょうか?」
「うーん、本当は1000億くらいいきたいところだけどなぁ。じゃあ、いったん100億でやってみるか」
孫さんは歩みを止めることなく、しぶしぶ頷きました。
なんとか承認は取りつけた……。ホッとして立ち止まる私と、エレベーターに向かってつかつかと歩いていくインターネット産業界の巨人。その背中に向かって、私は最後に問いかけました。
「孫さん、このキャンペーンをやったら、LINE Payが必ず追撃してきます。とんでもない叩き合いになりますよ。それだけの覚悟を持ってやりますか?」
数メートル先を歩いていた孫さんの足が、ぴたりと止まりました。そして、くわっとこちらを振り返りました。
「上等だよ。どっちかが潰れるまでやってやるよ」
——そんな一幕もあって「100億円あげちゃうキャンペーン」は生まれました。
結果を言いましょう。キャンペーンが始まるや、対象店舗のあちこちに長蛇の列が。「2カ月は持ってくれるかな」と社内で話していた予算の100億円は、わずか10日であっという間に使い切ってしまいました。でもそのインパクトは甚大で、ユーザー数はみるみるうちに増えていきました。

