2022年に、俳優ロバート・レッドフォードが設立した米サンダンス・インスティテュートによる映像作家支援プログラム、サンダンス・ラボのフェローに選出された彼は、『フォレスト・ガンプ/一期一会』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の名脚本家エリック・ロスらのアドバイスのもと、脚本をはじめとした本作のプロジェクトの基盤を深化させていった。
そこからトム・ハンクス主演の映画『幸せへのまわり道』のメガホンをとったマリエル・ヘラー、『ハリー・ポッター』シリーズのクリス・コロンバスらとともに、ロスも本作の製作総指揮に名を連ねることとなった。
彼らのサポートによって、本作はイラクでの本格的な撮影が実現した。もちろん映画製作のサポート体制が固まっていないイラクでの撮影は、人材面や、機材面などの点において、困難を極めるものであり、周辺国での撮影を敢行したほうがやりやすさはあった。
しかし、ハーディ監督は、ハリウッド映画などで描かれがちなステレオタイプなイラク像とは一線を画した、実際の90年代のイラクでの暮らしぶりをスクリーンに映し出したいという強い意志のもと、現地で撮影することにこだわった。
決して恵まれた撮影環境ではなかったが、その反面、多くの地元の人たちが撮影をサポートしてくれたという。本作には、なかなか映画には出てこない、イラクの人々の日常や息づかい、失われつつある懐かしい風景などが鮮明に映し出されている。
主人公のラミアを演じたバニーン・アハマド・ナーイフ、友人のサイードを演じたサッジャード・モハンマド・カーセムらをはじめ、主要キャストは全員が演技未経験者だった。
イラクには子ども向けの演技学校というものが存在しないため、スタッフは学校やショッピングモール、店舗など、役に合いそうな子どもたちを求めて、丹念に街を探し歩くなどして、キャスティングには非常に苦労したという。
俳優たちの中には読み書きができない者もおり、彼らは物語の全容を知らぬまま撮影に参加。「彼らには“俳優”になってほしくなかった」とハーディ監督が語るとおり、脚本を渡して演技をしてもらう、といった従来のやり方ではなく、彼ら自身の内に生まれる「生きた感情」を逃さないよう、ほぼ物語の時系列に沿って撮影を行った。
監督の友人が直面した“過酷な運命”
本作はハーディ監督の実体験を基に描かれているが、この物語の核には、ハーディ監督自身が子ども時代から抱き続けてきた罪悪感、葛藤などがあったという。
フセイン大統領の誕生日を祝うための品々を用意する係を決める「くじ引き」において、幼少期のハーディ監督は比較的負担の軽い「花係」を引き当てたが、友人は不運にも「ケーキ係」に選ばれてしまった。極度の物資不足と貧困の中、その友人はケーキを用意することができず、結果として彼は学校を退学させられ、後に少年軍への入隊を余儀なくされることになった。
